[論説]JAの相続相談 将来見据え体制強化を
2025年には65歳以上の割合が約30%に達し、高齢化は加速する。次世代への事業承継や相続の時期を迎える組合員、農家は多くなる。食料安全保障を支える農地を維持し、有効に活用するためには、後継者らへの円滑な継承が欠かせない。
貯金などの資産も、JAの組織・経営基盤を支える。高齢組合員の保有割合が大きく、相続をきっかけに他の金融機関や、大都市圏への流出が加速する懸念が高まっている。地域農業やJA経営の持続性を支える上で、相続対策の強化は重要となる。
事業承継や相続は、JAグループの「次世代総点検運動」の柱だ。JA全中、JA全農、JA共済連、農林中央金庫によるJAグループ相続相談強化方針では、全JAで相続相談の担当部署や担当職員を明確化するよう掲げた。
全中によると、担当部署を明確化できたJAはまだ半数ほど。相続相談の重要性については認識されているが、「人員の強化が後回しになっている」「収益確保などの優先すべき課題が多い」などの声があり、現場の厳しさを物語っている。
この分野は、短期的に成果や収益に直結しにくいのは事実だ。JAの経営環境は厳しく、職員不足が深刻化する中で体制を強化するのは容易なことではない。ただ、先送りすればするほど、将来の農業基盤の縮小は避けられない。専門性の向上や人材の確保を進める必要がある。
優良事例は多い。JA山形市では不動産登記や財産目録の作成など、複雑な相続の手続きをJAが支援する「相続まるごとサポート」を展開。有料制で申込件数は年間約50件に上る。JAみやざきこばやし地区本部は、豊富な知識を持つ職員がいる専門部署を設置。資産の承継モデルを作成し、本人と後継者、JAの担い手担当者、融資担当者らで作る専門チームが適切な時期や承継方法などを検討する。こうした事例を参考に、体制整備の課題を克服したい。
組合員が急逝し、相続が発生することもある。生前からの対策が鍵を握る一方、組合員にとっては目先の対応に追われ、後回しになりがちだ。それを支えるのが組合員との対話の深化だ。JA合併や広域化が進む中、組合員と培った信頼を継承する努力が、地域農業やJA基盤を守ることにつながる。