[論説]バイオ燃料の国産化 脱炭素化へ再評価せよ
政府は昨年、「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」を閣議決定した。農業は、脱炭素化や温室効果ガス吸収機能の強化推進に向け「投資を促進する」対象となった。農業が有する脱炭素化機能への期待の高まりと受け止めたい。
農業は、温室効果ガスを吸収する機能があるだけでなく、環境に優しい燃料生産の一翼を担っている。海外で進む作物を原料にしたバイオエタノールである。化石燃料と違って、燃焼で出る二酸化炭素(CO2)は、植物が生育時に空気中から固定したもの。燃やしても大気中のCO2を増やすわけではなく、ガソリンより温室効果ガスを減らせる。米国ではおおむね、ガソリンの10%にバイオエタノールを混合している。
一方の日本では、原油高騰でもエタノール混合はほとんど手付かずだ。4月の日米首脳会談で、岸田首相とバイデン大統領が、エタノール由来も含む「クリーン・エネルギー技術の普及を促進」すると、共同声明に盛り込んだ。政情不安定な中東からの原油輸入だけでは、燃料の安定供給が懸念される。今後は日本でも、バイオエタノールへの関心は再燃するだろう。
アメリカ穀物協会は、昨年まとめた「バイオ燃料検討会報告書」で、日本国内でのバイオエタノール生産の可能性に触れた。全国の耕作放棄地で水稲多収品種を栽培してバイオエタノールにすれば、年間190万キロリットルのバイオ燃料ができると試算。これはガソリン消費の4%に相当する。
農水省は2007年度からバイオ燃料の原料調達から製造・販売までを実証する事業を進めていたが、経営の自立化は困難として、14年に打ち切りを決めた。事業検証委員会の報告書では、赤字が出た場合の負担の在り方などが課題とされたが「日本のモデルとなる素地がある」と評価された事業事例もあった。
三菱総研は昨年、国内の米生産能力は高齢化に伴って急激に落ち、40年には主食用米の需要を156万トン下回るとの試算を出した。大幅な減産を抑えるには、今のうちから米の需要を広げ、生産体制を維持することが重要だ。燃料用米は飼料用米と共に、その役割を果たせるはずだ。
農水省の事業打ち切りから10年。温暖化や燃料高騰は深刻化する。燃料の国産化を含めた中長期的な視点から稲作政策を見直したい。