[論説]農林中金の資本増強 今こそ原点回帰の時だ
資本増強は、JAや信連などの会員から借り入れている永久劣後ローン7169億円を償還した上で、7360億円の「後配出資」を受ける。これに加えて、期限付き劣後ローン約6000億円を24年度中に新たに調達する。
大規模な資本増強は、ポートフォリオ(資産構成)の改善に向けた投資余力を確保するためだ。農林中金が保有する米国・欧州の国債などの債券は、金利の高止まりで評価損が拡大、6月末に2兆3047億円まで膨らんだ。
農林中金は、中長期的な収益基盤改善へ、早期に抜本的な資産の入れ替えが必要と判断、低利回り資産を10兆円規模で売却する。米欧国債の比重が大きかった運用のバランスを、資本増強を土台にどう再構築するかが重要課題だ。
評価損を抱える債権の損失処理で、24年度は1兆5000億円規模の赤字を見込む。JA経営にとって焦点となるのは、黒字転換と配当復活(復配)の時期だ。
農林中金からの配当や、信連やJAからの預金に対する金利(奨励金)は、JAの収益を下支えしている。奨励金は維持されるが、赤字計上を受け、配当はなくなる。24年度に抜本的な対策に踏み切るだけに、25年度の黒字転換を確実にし、早期の復配につなげたい。奥和登理事長は日本農業新聞のインタビューで、復配の時期を「遅くとも28年度」との意向を示した。
収益還元以外にも、農林漁業者や農山漁村への貢献が問われている。奥理事長は5月の決算説明会で、「現場で事業が少しでも効率化できるよう、しっかりと役割を果たしていきたい」と強調した。
農林中金はこれまで、JAの営農・経済事業の支援や貸し出し強化などのプログラムを展開してきた。職員を投入し、体制や戦略づくりを伴走支援し、多くのJAの事業成長や効率化に貢献した。今後、JA支援や「担い手コンサルティング」などをどう強化していくかが重要になる。
農業融資の充実も欠かせない。農家が資材高騰に苦しむ中で、食料安全保障の強化に向けて多様な資金需要に対応することが強く求められる。
農林中金は昨年12月に設立100周年を迎え、次の100年へ歩みを始めたばかりだ。農業やJA、地域に寄り添い、基盤を支えるという「原点」に、いま一度立ち返る機会にしなければならない。