「と畜」は文字どおり家畜のいのちをいただき食肉にすることです。と畜工程での衛生管理水準次第で、食肉の賞味期限が大きく左右されることは想像に難くないと思います。しかし、それだけではありません。食肉の品質も大きく影響を受けます。食肉処理の現場では、品質を落とさないよう様々な対策をしています。
常に品質維持に努めている食肉処理の現場
関係者が発生防止に努めている肉の一つがPSEです。通常ふけ肉またはむれ肉とも呼ばれます。この肉のpH値は低く(5.2以下)、保水性も悪くなります。豚のロースやももの断面の肉色が白っぽく(Pale)、柔らかくて締まりがなく(Soft)、水っぽい(Exudative)という特徴を持ち、この頭文字を取ってPSEと称されます。その外観の悪さや、肉汁の流失による目減りに加えて肉の結着性が悪いため、ハム・ソーセージの加工には向きません。と畜の直前に豚を興奮させたりすると、筋肉内のグリコーゲンを異常に早く分解して、と体温が高い間に筋肉のpHが急速に降下するために起こるとされています。
この逆がDFDです。肉色が濃く(Dark)、肉質が硬く(Firm)、乾燥している(Dry)ことから称されます。このような肉はうまみ成分のひとつであるイノシン酸が少ないため風味が乏しく、pH値が高い(5.8以上)ため細菌が繁殖しやすく、食肉衛生上も非常に問題となります。と畜前の長時間の絶食や長距離輸送などによって家畜が消耗疲労状態にあり、筋肉の自然なpHの低下がいつまでも生じないため起こるとされています。
最近では農場でも、と畜場でもアニマルウェルフェアが求められるようになってきました。EUなどへの輸出に際しては必須条件となっています。家畜を最後まで大切に扱うことは、より高品質の食肉をつくることに繋がります。まさに理にかなった考え方といえるでしょう。