[論説]災害からの農業復旧 万全な支援制度構築を
秋田、山形両県で大規模な水害が発生し、2カ月が過ぎた。両県合わせた農林水産関連の被害額は約458億円。死者も出た山形県酒田市大沢地区では、農地に入り込んだ土砂や流木などを除去できず、手付かずの場所が多い。この地区で水稲を約6ヘクタール栽培する高橋一泰さん(75)は、栽培面積のほぼ全てが水没。今季は1割程度しか収穫できなかった。氾濫した河川に沿うように農地があり、その影響で農地が大きく変形。復旧の見通しが立たない。
高橋さんが今回の災害で懸念するのは、兼業農家の離農だ。農機の再取得などの負担は重く「離農する兼業農家が出てくるだろう。専業農家が営農再開への意欲があっても、地域全体で足並みがそろわなければ、復旧は前に進まない」と不安視する。
激甚災害に指定されれば、農地や水路などの復旧へ経費のほとんどが支援される。問題は、水に漬かった農機の再取得にかかる費用や、畜舎などの再建・修繕の経費など個人が所有する分についての助成措置がないことだ。温暖化は進み、気候変動が激しくなる昨今、甚大な災害に遭っても、離農することなく農業再開へ意欲が持てる万全な支援策が必要だ。
被災農家の個人負担が大幅に軽減した例はある。2020年7月、熊本県を襲った豪雨支援だ。当時の安倍晋三首相が、被災者の生活やなりわい再建へ「対策パッケージ」を実行するよう各官僚に指示し、農水省は「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」を発動した。同県の場合、農機の再取得や畜舎の再建などにかかる費用について国が最大5割、県と市町村がそれぞれ最大2割を補助したことで、補助率は最大9割となった。JA担当者は、補助率が大幅にかさ上げされたことで「営農継続を決断した農家が多かった」と評価する。
元日の能登半島地震では300人以上の命が奪われ、今度は記録的豪雨が襲った。現場は再度、激甚災害への指定を求めている。地震により「二重ローン」を抱えた農家が、再び被災した例もある。農家がいなくなれば、誰が農業を担い、農村を守るのか。
早急な農業再開に向け、被災農家の個人負担を大幅に軽減する恒久的な支援制度の構築が急務だ。石破茂首相が創設を目指す「防災庁」の事業にも盛り込むべきだ。