[論説]能登豪雨から1カ月 被災地再建待ったなし
能登豪雨は、地震を生き延びた命をも奪った。県によると、死者・行方不明者は10~80代で計15人、河川の氾濫と土石流に家ごとのまれた人が多かった。10人が亡くなった輪島市では、兄弟で米作りをしていた80代の農家2人が刈り取り前の稲が気になって仮設住宅から田の見回りに行き、濁流にのまれた。線状降水帯の発生で集落を流れる塚田川が数分で氾濫。越水に気付いた時には、逃げられなくなっていたとみられる。
気象庁は「近年の豪雨は短時間で河川を氾濫させる」と警告する。輪島市では当時、1時間の最多雨量記録の約2倍となる121ミリが降った。豪雨時の見回りで農家が命を落とすケースは、以前から相次いでいる。行政、JA含めて豪雨時の見回り厳禁を徹底したい。加えて、平時から避難場所を確認し、非常時は早めに避難してほしい。
豪雨による農業被害は甚大だ。奥能登の農家は「地震より豪雨の被害がつらい」と口をそろえる。地震でひび割れた農地や水路をやっとの思いで修復したら、今度は豪雨に伴う土砂が押し寄せ、心身ともに疲弊している。輪島市農業委員会によると、奥能登は県内でも高齢化が進んでおり、農機購入などに行政からの助成があっても「新たな借金はできない」と農業再開をためらう農家がほとんどだ。
甚大な災害が起きるたび、離農は加速し、食料安全保障は脅かされる。政府にはこれまで通りの支援でなく、国民の命と食を支える農業・農村を守るという信念に基づいた支援の大幅拡充を求めたい。
県は18日、輪島市で豪雨被災者用の2階建て仮設住宅116戸の建設を始めた。工期は平屋より長い3カ月以上とされるが、平場にある公園や競技場、農地の多くは既に地震被災者向けの仮設住宅が建つ。奥能登の冬は厳しいだけに、雪が降る前に一日も早く完成を急がねばならない。
断水や停電も続く。地震から水道が止まったままの珠洲市馬緤地区では、多くの地区で中止を決めたキリコ祭りを決行した。吉國國彦区長は「生きる上で必要な水道がなおざりにされている」と憤る。その中で祭りを決行したのは「普通に暮らしたいという思いを伝えるため」という。
多くの被災者が絶望の淵にいる。衆院選後に発足する新政権の最初の試金石の一つは、能登の再建と復興対応だ。