[論説]キノコの食中毒 「迷ったら採るな」徹底
野生キノコによる食中毒は例年9~11月に集中する。厚生労働省の調べでは2023年の患者数は、ここ3年間で最多の60人に上った。日本きのこセンター菌蕈(きんじん)研究所(鳥取市)によると、今季は気温が高く推移し、キノコが大量に生える条件下にはないという。だが、朝晩の冷え込みが厳しくなると、キノコの生える環境が整い、秋が深まる10月下旬から特に注意が必要という。
既に長野県では死者が出た。長野市保健所によると、7月に20代男性が長野県上田市の道端に自生していた「ドクツルタケ」「コテングタケモドキ」とみられる毒キノコを誤って食べ、嘔吐(おうと)や下痢、腹痛を訴え医療機関にかかったが、死亡した。毒キノコを食べて亡くなったのは同県では46年ぶりだった。
飲食店で提供される野生キノコも油断できない。徳島県阿南市で10月中旬、来店客が持ち込んだ毒キノコ「ツキヨタケ」が原因で集団食中毒が発生。鉄板焼きにして食べたところ、来店客と店主8人が被害に遭った。症状は治まり快方に向かっているというが、食べる側も提供する側も、正しい知識を身に付けよう。
秋田きのこの会会長で、秋田県林業研究研修センター専門員の菅原冬樹さんは「世界中には、名前が付いていないキノコがたくさん存在する。専門家でも見分けられないものは多くある」と指摘する。対策として定期的にキノコの学習会を開いて「はっきり分かるもの以外、食べないでほしい」と説明している。
特に、食中毒の件数が多いのは毒キノコの「ツキヨタケ」「クサウラベニタケ」など。食べられるキノコと酷似しており、厚生労働省などは注意を呼びかけている。改めて疑わしいキノコは絶対に口にしないことを徹底しよう。
キノコ狩りは、熊にも注意が必要だ。11月にかけて冬眠の準備のため、ツキノワグマが餌を求めて活発に活動する時期となる。山に入る時は鈴などを身に着け存在をアピールすることが大切だ。遭遇したらゆっくりと後ずさりしよう。万一、攻撃されそうになったら頭や顔を守る防御姿勢を取って致命傷を防ごう。
野生キノコは魅力的だが、判断を誤れば取り返しのつかない事態となる。行政などが発信する情報から正しい知識を学び、食中毒から身を守ろう。