[論説]牛のランピースキン病 水際対策や消毒徹底を
同病は、牛や水牛が感染し、全身に大小の結節(いぼ)が出るのが特徴。発熱や食欲減退、乳量の減少などを伴い死ぬのはまれ。感染力は弱く数カ月で自然治癒し、肉や乳を通して人への感染はないが、有効な治療法が確立されていないのが課題だ。
アフリカで流行後、世界各地に広がり、アジアでは2019年以降に拡大した。韓国では23年10月の初発以来、全土に拡大。農水省は、韓国からの人や物の往来に伴ってウイルスが侵入する可能性があるとして警戒を呼びかける。
国内では22日時点で、福岡県の8農場(乳用7、乳用・肉用1)と熊本県の1農場(乳用)で発生を確認。福岡県によると、普通ではできない足などの部位にいぼができているのを獣医師が確認、県に連絡し、国の検査で確定した。
基本的な対策は、吸血昆虫が入り込まないようにすること。ウイルスを媒介する蚊やハエ、ダニはピレスロイド系や有機リン系といった殺虫剤、粘着シートなどで駆除を徹底したい。水や飼料などにウイルスが付着しても感染が広がる。他の畜産関係施設などで使った器具は、農場内に持ち込まないことも重要だ。持ち込む場合は必ず洗浄、消毒などをしよう。消毒はエタノールや次亜塩素酸ナトリウム、逆性せっけんが有効。車両と畜舎の消毒は、同病に限らず、アフリカ豚熱などあらゆる疾病からも家畜を守る。
いぼなど同病を疑うような症状があれば、すぐに獣医師か家畜保健衛生所に相談しよう。同病の発生以降、インターネット上では畜産農家から不安の声が相次いでいる。韓国で感染が拡大し、同国では感染牛を殺処分していることなどが要因だ。福岡県では現場の不安の声を受け、発生農場から半径20キロ以内にある県内計50農場で飼養する乳用、肉用牛計約5000頭へのワクチン接種を始めた。
まずは冷静に対応したい。日本で同病は法定伝染病ではなく、「届出伝染病」に指定されている。個体の隔離や出荷の自粛は必要だが、殺処分や移動・搬出制限はない。何より「ワクチン接種後の風評被害が怖い」という農家の不安に寄り添う万全の施策を求めたい。
同病に限らず、同省が最も警戒するのは、アフリカ豚熱の国内侵入だ。日本の畜産を守るため、空港などでの水際対策の強化を含め、官民挙げて感染防止を徹底しよう。