[論説]輸入米が国産需要圧迫 MA制度見直しが先だ
大手スーパーの西友は今月中旬、関東エリアの138店舗で台湾産米の販売を始めた。台湾産ジャポニカ種をブレンドした「むすびの郷」で、精米価格は5キロ2797円。同社が扱う国産の新米価格を1000円程度下回る。割安感で消費者の支持を一定につかみ、「一部店舗では欠品も出ている」(同社)という。
他にも、関東圏のスーパーではベトナム産米を同2030円で販売、東京都内のディスカウント店では米国産「カルローズ」を同2538円で扱う。国産米の価格上昇に加え、集荷競争の過熱などで調達環境が不安定化し、政府の売買同時契約(SBS)入札による輸入米の調達に関心を持つ業者は増えている。
日本は、需要の1割強に相当する年間77万トンのMA米を輸入し、このうち主食用に最大10万トンをSBS入札にかける。24年度はこれまで3回の入札を行い、いずれも上場した2万5000トン全量が落札された。本年度は年間枠の上限10万トンが落札される公算が大きい。年間落札量が2万~7万トン程度だった近年に比べ、国産米の需要がより奪われることになる。
国内の産地は米の需給均衡へ転作を強化し、農地を維持しようと努力を重ねている。需給を不安定化させる輸入枠の見直しを求める声は、以前から相次いでいる。それにもかかわらず、政府はMA米の輸入は多国間の貿易交渉に基づく国際約束となるため、「見直しは困難」との姿勢を崩していない。
MA米はSBS米を除いたほぼ全てを加工・飼料用として処理するため、多額の売買差損が生じる。政府が輸入米にかけた年間の財政負担(23年度)は684億円で、国産米の政府備蓄に伴う負担(478億円)より多い。
一方、財務省は今月中旬、国の農業予算に対する考え方を示し、政府備蓄米の備蓄量を主食用の需要に応じて見直すよう主張。主食用米が逼迫(ひっぱく)する緊急時には、MA米の活用を検討するよう求めている。財政負担の軽減を優先するとして、食料安全保障を支える国産米の備蓄水準を減らし、緊急時は輸入米に頼れば良いとする内容で、極めて問題である。
国産米の需要減が進んでも長年変えてこなかったMA米の輸入量を見直すのが先だ。輸入依存からの脱却へ、国内の生産基盤を強化すべきだ。