[論説]多発する熊被害 人命守る対策 最優先に
11月末には秋田市のスーパーに熊が立てこもる事件が発生し、従業員が負傷した。熊による人的被害は2023年度は死者6人を含め219人と、過去最多となった。
環境省が発表した11月の全国の熊による人的被害速報値は、新潟2人をはじめ秋田、長野、兵庫、山口が各1人の5県6人(死者はなし)。4~11月累計で被害は22道府県、死者3人を含む81人に上った。出没件数を公表していない北海道を除き、4~10月の出没は計1万7988件、捕獲数は4502頭になっている。北海道が発表した23年度ヒグマの捕殺統計によると、前年度と比べて1・9倍の1804頭と増えている。
同省は、一定の条件下で市街地でも銃猟ができるようにするため、鳥獣保護管理法の改正を目指している。
本州以南のツキノワグマの出没件数も23年度(4~12月)は過去最多の2万3669件。うち東北が約6割を占め、中でも多いのが岩手(5818件)、秋田(3663件)となっている。出没が増えている要因は、餌となるブナ科堅果類の凶作が大きい。
農水省も今秋、各農政局を通じて農業現場での被害防止への指導を求める通知を出して注意喚起を求めた。温暖化の影響で冬が暖かくなるほど、熊が冬眠に入る時期が遅くなり、餌を求めて人里に出没する頻度が一層、高まることを警戒する。
熊や鳥獣による被害の多発は、地域の農家のやる気をそぎ、離農や過疎化を進める要因になる。被害を防ぐには、地域間の連携が欠かせない。そのため、同省などが掲げる鳥獣害対策の3本柱を徹底したい。まず「やぶの刈り払いなどによる生息環境管理」で隠れ場所をなくし、「柵の設置などの侵入防止対策」をしよう。柿などの放任果樹や廃棄野菜の除去も重要だ。その上で最終手段となるのが「捕獲による個体数の管理」だ。
独自の対策に取り組む県もある。秋田県では「クマ出没マップ」を作成し、出没が確認された地点がひと目で分かるようにした。青森県ではリンゴ園にカメラを設置し、人工知能(AI)を使って、熊の出没を音や光で農家に知らせる技術の検証を進める。環境省は25年度、北海道や東北などの環境事務所に熊対策の専門職員を配置する。人命を脅かす熊被害を減らすには、対策の一層の強化が必要だ。