[論説]水田活用の直接交付金 水張り要件見直し必ず
水活を巡っては、財務省が2016年の予算執行調査で「現況として米の生産ができない農地や米以外の生産が継続している農地を交付対象から除外すべき」だと指摘。これを受け農水省は17年、畦畔(けいはん)などたん水設備と用水供給設備がない農地を除外する基準を設けた。21年12月には22~26年の5年間に一度も水張りしない農地を交付対象から外す方針を決めた。
会計検査院も22年度の決算検査報告で、水稲の作付けが困難な農地に交付されているなどと厳しく指摘した。こうした経緯を見れば、財政・会計当局に、農水省が理詰めで押し切られた感がある。
背景には、米の需要が減り続ける中で、産地が転作に取り組んできた歴史がある。生産調整の長期化で、かつての水田台帳の情報が十分に整理されないまま、農地の現況とのずれが生じてきた面は確かにあるかもしれない。
だが、もともと、どの農地を交付対象とするかは地域協議会による判断を重視していたことからすると、「現況が水田かどうか」だけに着目し、一方的に水田の定義を厳格化するのは、あまりにも形式的過ぎる。地域農業を振興し、農地をどう維持するかという肝心の視点が欠落している。
期限を決めて、畑地化か水張りかの二者択一を強いるのも乱暴だ。どちらも地域の合意形成や権利調整が必要で、机上で考えるほど容易ではない。27年度以降の水田政策がどうなるか分からない中では、選択しようがない。
水稲と畑作物の輪作は有効だが万能ではない。地域や農家によっては独自に排水対策を講じるなどして畑作物を生産してきた経緯もあり、水田経営全体を考えれば、輪作以外の経営判断もあり得る。
そもそも、排水対策が欠かせない大豆などを作付けする圃場(ほじょう)に、水を張らねばならないのはおかしい。江藤農相は国会答弁で、たん水による収量低下の懸念に理解を示し、病害虫を減らすとして農水省が1カ月以上のたん水を求めていることに対して「説得力に乏しい部分もあった」と率直に認めたのは、うなずける。
都府県のソバなど水活がなければ継続が難しい品目もある。水張り要件はいったん、凍結・緩和し、多様な地域で経営が成り立つ仕組みを作ることに全力を挙げるべきだ。