[論説]作る人と食べる人 対等互恵の関係築く年に
再生産確保が焦点
対等互恵。この言葉は半世紀前、協同組合運動の中から生まれた。生活クラブ生協は、現在も生産者と交わす契約書の中に「対等・互恵の理念にもとづき連帯して、生産者及び生協組織と運動を強化発展させる」との理念を掲げている。ウクライナ危機以降、輸入に依存する化学肥料や飼料などの価格高騰が長引き、農業経営を圧迫する。政府は1月の通常国会で生産費を考慮した農畜産物の価格形成を促す関連法案を提出する見通しだが、直接支払いの拡充を含め、農家が再生産できる価格をどう確保するかが、大きな焦点となっている。
こうした中、同生協では食べる側、作る側が対等な立場で互いに話し合うことで価格転嫁につなげている。「生産者と消費者は互いに利益を享受している。買う方が強いのが今の情勢だが、生産者をもっとリスペクト(尊敬)し、再生産できる価格を受け入れる必要がある」と同連合会の村上彰一会長。
同生協では生協組合員が提携する産地に移住し、農業にも積極的に携わる。山形県酒田市に建設された移住・交流の拠点「TOCHiTO(トチト)」には2023年以降、40代から80代まで多様な世代16人が入居。都会と田舎の二拠点生活を楽しみながら、JA庄内みどり管内の提携生産者の元に援農に出向く。
お金を払う方が上で、もらう方が下。そんな縦の関係ではなく、食でつながる横の関係を広げることが求められている。
JAと生協が提携
生協発の取り組みに共鳴し「対等互恵」を直売所の理念に掲げるJAも出てきた。中山間地域に囲まれたJA愛知東は、昨年オープンした直売所「グリーンファームしんしろ」の入り口に、この言葉を掲げた。
海野文貴組合長は「消費者は少しでも安いものを買いたい、生産者は少しでも高く売りたい。相反する関係の中で、お互いが理解と尊重、そして感謝の念のもとに適正価格が成り立つという考え方が必要」と指摘する。
さらに、生協のコープあいちと「対等互恵」の理念を盛り込んだ新たな協同組合間提携を結び直し、「農産物を買うことで、地域農業を支えてほしい」と呼びかける。
農村と都市共生を
安ければ安いほどいい――。価格競争の果て、酪農家をはじめ全国の農家が離農に追い込まれている。農山村から人がいなくなれば農地は荒れ、地方は衰退する。負のループから抜け出すには作る人と食べる人、農村と都市が「お互いさま」の関係を取り戻す必要がある。
明治大学の小田切徳美教授は、「にぎやかな過疎をつくる」(農文協)の中で、「農村なくして都市の安心なし、都市なくして農村の安定なし」という都市農村共生が、「農村=切り捨ててもよい地域」という考え方に対する対抗戦略になると主張する。
こうした考え方は、能登半島地震から1年となる被災地の復旧復興を進めていく上でも重要となる。財務省の財政制度等審議会は、コスト重視の集約的なまちづくりを提言したが、石川県珠洲市で復旧を支える元農水省職員の本鍛治千修さんは「非効率な零細農家を切り捨て、規模拡大を支援すべきだという声もあるが、誰が日本の原風景を守ってきたのか。誰が水田の持つかん養力で洪水を防いできたのか」と問う。
利益やコスト、効率、規模拡大ばかりを追求する経済優先の社会構造は、働く人の意欲をそぎ、やがて衰退する。分断を超えて違いを受け入れ、互いに恵みを分かち合う「友愛の経済」(協同組合の父・賀川豊彦氏)が今、求められている。