[論説]2024年回顧・農政 食料安保へ予算さらに
自然災害や地域紛争の多発、円安などを背景に、輸入に依存してきた肥料や飼料などの資材価格が高止まりし、食料安全保障を揺るがす事態が続く。5月29日に成立した改正基本法は、「不測時における措置」を新設した。
これを受け食料供給困難事態対策法は、食料危機に陥ったときに、出荷販売計画の作成・届け出の政府指示に従わなければ、20万円以下の罰金を科すとした。厳し過ぎるなどとして立憲民主党や共産党などは反対した。
こうした事態とならないよう、平時からの生産基盤の強化が急務だ。JAグループは、10月の第30回全国大会で食料安保への貢献を決議した。
政府は、改正基本法に基づく食料・農業・農村基本計画の見直し作業に着手、来年3月までに策定する。低迷する食料自給率や各作物の生産目標など、農業・農村の衰退に歯止めをかける具体的な目標設定が焦点となる。
酷暑も農畜産物の需給に大きな影響を与えた。主食である米の不足が顕在化し、一時はスーパーの棚から米が消えた。高温で2023年産米の生産量が減ったことや、インバウンド(訪日外国人)需要の増加、南海トラフ地震への備えなどによる。
この「令和の米騒動」は、24年産米の出回りで一服したものの、調達競争は過熱し、JAなど大口団体は集荷に苦戦する。25年産米の作付け動向が注目される。
野菜や果樹も、猛暑による影響で品質や生産量が低下。資材価格の高騰で、厳しい経営が続く。10月には指定生乳生産者団体に生乳販売を委託する酪農家の戸数が初めて1万戸を下回った。子牛価格の低迷で畜産経営も厳しい。持続可能な農業経営へ、適正な価格形成に向けた法制化は待ったなしだ。
24年度補正予算は、農林水産で8678億円を確保し、同年度の農林水産予算は3兆円を超えた。政府は「改正基本法の初動5年間で集中的に構造改革を進める」としており、25年度予算案審議では、食料安保の確保に向けた、大幅な増額を求めたい。
衆院選では自民党が大敗し、少数与党となり、不安定な政権運営が続く。年明け後の通常国会は石破政権にとって正念場だ。石破首相の掲げる「地方創生」は、農業・農村の衰退を食い止めることから始まる。停滞は許されない。