[論説]米の流通自由化30年 問われる国の安定供給
食管法の時代(1942~95年)は、国への全量売り渡し義務が課され、買い入れ価格も国が決めていた。だが財政負担や、ヤミ米の増加を受けて69年、自主流通米制度を導入。95年の食糧法、2004年の改正食糧法の施行で米流通は民間に委ねられた。
流通自由化に伴う最大の弊害は米価の低迷だろう。大型スーパーが、個人の米穀店に代わり販売の主役となって以来、価格競争が激化。北日本の大冷害や東日本大震災の混乱を除けば、米価は総じて下落傾向となった。
一方、米の消費量は、食生活の欧米化や単身世帯の増加で減り続け、産地は売れる米を作ろうとブランド米の開発を進めた。結果、「コシヒカリ」や「あきたこまち」「ひとめぼれ」が台頭、北海道「ゆめぴりか」、山形「つや姫」が追い、各産地で独自品種が誕生した。米の食味向上につながったものの、産地に閉塞感が漂う展開となった。
食管法は廃止から30年たってもなお、産地からは復活を求める声が根強い。復活は難しいが、国による積極的な関与を求めている表れだ。
米の流通自由化以降、国は財政負担の軽減へ、価格を市場に委ねる政策を推し進めてきた。だが、大手小売りや外食によるバイイングパワーを前に価格は低迷、農家は再生産できない状況に陥った。頼みの経営安定対策も時代によって変化し、経営を支えきれていない。直近の米価は回復してきたものの、肥料など資材高騰が長期化し、経営を圧迫する。再生産できる所得をどう確保するか、直接支払いの強化を含め、国による具体策が問われている。
米の供給基盤はもろい。昨年は「令和の米騒動」が起きた。一部では転作による生産調整が米不足を起こしたとする見方があるが、正確ではない。政府が米流通を自由化した結果、供給力が落ち流通網にほころびが生じている。
生産現場では高齢化や担い手不足が深刻化し、カントリーエレベーターや水利施設は老朽化、更新は待ったなしだ。異常高温で病害虫が多発し、資材価格も高止まりする。安定供給のためのコスト、労力は増大する。
政府は27年度以降の水田政策見直しを掲げる。安値競争を続けていては農業は衰退し、食料安全保障は確保できない。米の安定供給へ、国の積極的な関与を求めたい。