[論説]スマホのバイトアプリ 活用広げ就農の糸口に
バイトアプリは、長期間やフルタイムの求人とは異なり、1日単位や数時間単位で働きたい人と仲介してくれるのが特徴だ。農業に特化したサービスは数種類あり、JAや都道府県で導入を進める産地も出てきた。
三重県のJAいがふるさとでは昨年、産地でバイトアプリを導入した。JAがアプリの運営会社と人を雇いたい農家の間を取り持ち、アプリの使い方を説明したり、傷害保険の加入などを指導したりした。これまでに90人ほどとマッチングが成立、求人に対し8割の高確率となった。JAは1日の隙間時間を有効に活用して、働きたい需要が多かったためとしている。
便利なスマホアプリにも課題がある。手軽に応募できることから、農作業の経験が少ない人が多いことだ。農水省によると、雇用する農家の不満の上位には「労働者の作業経験や取り組み姿勢にばらつきが大きい」「突然または無断での作業キャンセル、欠勤が多い」「作業が想定したほど進まない」などが上がっている。年代や性別、国籍などが違っても、誰もが働きやすい労働環境の整備や賃金体系が求められている。
農家との信頼関係が生まれれば、突然のキャンセルや欠勤は減るはずだ。JAいがふるさとでは、4割がリピーターという。農業現場で短時間のバイトを重ねることで、農園や作物のファンとなり、農業の新たな担い手候補になることも期待できる。
バイトアプリを、慢性的な農業の人手不足の解消の糸口にしようという地域も出てきた。JA長野県農業労働力支援センターは、アプリの利用者を対象に、新規就農と農業法人への就業についての説明会を開いた。利用者が農業バイトを体験した後、就農を希望する人が一定数いたことを受けて企画した。山形県も、バイトアプリを通して新たな就農希望者の掘り起こしを進めている。
ただ、バイトアプリの活用を考える前に、清潔なトイレや休憩室の設置など労働環境は整っているか、まずは点検してほしい。安全な作業環境にも配慮し、一人でも雇えば公的保険である労災保険に加入するべきだ。分かりやすい作業内容の説明、丁寧な対応や声かけも欠かせない。
JAや行政など関係機関と一体となって、働き続けたくなる農業経営を目指そう。