[論説]減少する農地と担い手 直払いで経営安定急げ
人口増に伴う需要拡大で、世界の穀物生産は、史上最高の28・3億トン(2024/25年度)を見込む。だが、激しさを増す気候変動や紛争の多発などで増産の制約は今後、一段と強まるものとみられる。
こうした中、82億人に達した世界の人口は2050年には97億人に増える勢いだ。食料需要は旺盛で、農水省によると20年の900兆円から40年には1800兆円に倍増、争奪戦が激化する見通しだ。
政府は昨年、食料・農業・農村基本法を改正し、「食料安全保障の確保」を打ち出した。だが、財務省の建議に見られるように輸入依存を見直そうという気概に欠け、足りなければ輸入すればいいという姿勢がうかがえる。肥料や飼料などの輸入依存から脱却し、国内農業を立て直せるのか、甚だ不安だ。
私たちの食の未来は心もとない。農地と担い手の減少が止まらないためだ。ピーク時に609万ヘクタールあった農地は、転用や耕作放棄が進み、23年には430万ヘクタールと約7割に減った。資材高騰で農業経営は厳しく、高齢化は進み、担い手不足で農地利用率も91%台に低迷している。
政府は、38%(カロリーベース)まで下がった食料自給率を30年度までに45%に引き上げる目標を描くが、その前提とした農地面積(414万ヘクタール、耕地利用率104%)の確保は難しい状況だ。
農業者の離農も進む。農水省の試算では、20年に108万あった米など耕種農業の経営体は、30年には54万と半減する見通しを示す。農地の3分の1は、耕す人がいなくなる。生乳の販売を指定団体に委託する酪農家は昨年、初めて1万戸を下回った。農業を続けていけるのか、瀬戸際まで追い込まれている。
特に農地の4割を占める中山間地域にとって、地域おこし協力隊や移住者など多様な農業者の存在が不可欠だ。同省は、市町村が3月末までに作る農地1筆ごとに10年後の耕作者を明記する「目標地図」を基に、農地を確保したい考えだが、耕作者を書き込めない「白地」が予想以上に出る見通しだ。
農地も、担い手もこれ以上減らしてはならない。適正な価格形成を促す法整備をはじめ、農業経営を安定させる手厚い支援が必要だ。財務当局は、農業予算が膨らむことを警戒するが言語道断だ。食料が足りてこその国家安泰。今こそ政治の出番である。