[論説]伝統食の継承 観光と連携し活路開け
継承の危機を象徴的に表しているのが地域独自の漬物だ。昨年6月の改正食品衛生法の施行で、漬物製造業を営むには保健所の許可が必要となった。許可を受けるには加工場と生活の場所を分け、加工場の整備も求められる。自宅などで漬物を作る農家の高齢化も進み、法施行を機に廃業を決めるケースが相次いだ。
漬物だけでなく、伝統食の継承は危うい。JA秋田やまもとは、郷土の伝統食の作り方に詳しい女性を「伝統食名人・グランママシスターズ」に委嘱、料理教室の講師や弁当作りなどに活躍してもらってきた。だが、2015年ごろに17人いた名人は、高齢化などで活動できる人が4人に減り、継承が危うくなってきた。そこでJAは、名人の知識と経験をつなごうと「食農サポーター」の育成を始めた。
昨年11月の第51回JA鳥取県大会で、JAとっとり女性協議会の福井満寿美会長は、「未来をつくる子どもたちに安全・安心な食、地元農畜産物や、地域の伝統食を伝承していく責務がある」と強調した。JA女性部員をはじめ、地域ならではの伝統食を継承する取り組みを活性化し、食を通して「関係人口」を増やし、都市農村交流につなげたい。
過疎・高齢化が進み、農山漁村に根付いた食や暮らし方をどう後世に伝えるか。戦後の食料難を生き抜いたお年寄りの持つ食や農業の知恵や経験は、困難な時代を生き抜く宝となる。地元の児童や生徒らが聞き書きをして冊子に残したり、映像に残したりして、次世代につなぐ工夫が必要だ。
国学院大学観光まちづくり学部の米田誠司教授は、「農泊などの観光と連携し、伝統食の継承に必要な資金や人材を確保する必要がある」と提案する。
観光需要は、ブランド品などを買う「モノ消費」から、体験を買う「コト消費」に移っている。農水省は、農泊に取り組み、食の魅力で外国人の誘客に力を入れる地域を「SAVOR JAPAN(セイバージャパン=農泊 食文化海外発信地域)」として認定する制度を16年度に創設、24年度までに43地域が認定された。認定には地域に伝統食があることが要件の一つとなっており、伝統食の理解と習得が不可欠となっている。
まずは農家と観光業など異業種との連携を密にすることが、伝統食継承の鍵となる。