[論説]増える家族経営協定 公平な家事分担が鍵に
家族経営は、勤め人とは違い、仕事のオンとオフの垣根があいまいで、役割や労働時間、報酬などの就業条件が定まっていない場合が多い。このため家族経営協定では、経営方針や役割分担、働きやすい就業環境などについて、家族全員で話し合って決める。必要に応じて内容を見直し、一人一人が意欲とやりがいを持ってもらうのが狙いだ。
農水省がまとめた家族経営協定の締結農家数(2024年3月末時点)は全国で5万9587戸と増加傾向にある。家族それぞれの参画内容や収益の分配などの具体的事項を盛り込んで協定を締結・実行している場合は、条件付きで農業者年金の基本保険料が、一定割合で助成されるなどの優遇が受けられる。積極的に活用したい。
改正食料・農業・農村基本法でも、「女性の参画の促進」(第三十四条)の中で協定締結などの「環境整備を推進する」と明記。農林業センサス(05年)でも、農産物の販売金額の大きい農家は、家族経営協定を締結している割合が高いことが分かった。
政府は農業の生産性向上へ、経営の効率化や集約化を進めるが、規模は小さくても家族経営などによる多様な農業が各地で営まれていることが、予期せぬ変化に強い農業基盤の構築につながる。
実際、家族経営協定を締結した酪農家は、家族の役割分担を明確化したことで、作業が効率化し、終了時間が2、3時間早まり、自宅でゆっくり休息を取る余裕が生まれた。協定締結が夫と妻が話し合うきっかけとなり、「家族でありながら経営体でもある」という意識や責任が芽生えた農家もいる。
どのような経営を目指すのか、規模や収益、ビジョン、地域貢献や環境配慮などを家族で考え、将来の目標を描くことは次代へのスムーズな経営継承にもつながる。人口減少社会となり、働き手は常に不足している。家族全員が、自分の能力を十分に発揮できる環境づくりが求められる。
農林漁業者の1日の家事、育児の合計時間は女性2時間57分、男性26分と偏りが目立つ。家族は対等であり、主従関係は存在しない。まずは結婚や妊娠、子育て、介護などのライフステージに合わせ、公平な家事分担から始めよう。目指す農業、暮らし方は人それぞれ。型にはまらず、わが家らしい協定を結ぼう。