ハムの歴史をたどると、大昔の欧州で豚肉を保存する際に岩塩をまぶしたところ、そこに含まれていた天然の発色剤(硝酸塩)が化学反応をおこし、今のハムの原型ができたと考えられている。発色剤は豚肉特有の熟成風味を醸成し、肉色を加熱後も桃赤色に保つだけでなく、保存性や風味を向上、さらにボツリヌス菌の繁殖も抑制する。想像するに、昔の北欧州など、冬は食料が乏しかったことだろう。嫌気性菌のボツリヌス菌は保存食の大敵で、それを抑制できる発色剤は不可欠の存在だったはずだ。
というわけで冒頭のお客さんに「発色剤はハムやベーコンに本来不可欠なもの」と簡単に説明しても、「??」という反応をされることがほとんど。発色剤を着色料と混同しているらしい。そもそも発色剤という名前が着色料と紛らわしいんじゃないかという気もするが。
なおハム生産者の中には、化学的に作られた発色剤(亜硝酸ナトリウム等)ではなく、天然素材に含まれている発色材を利用している方もいる。岩塩だけでなく、発色剤の成分は意外と色々な食材に含まれている。
これが肉屋的にはちょっと困った問題を引き起こすことがあり…。ハンバーグやメンチカツを作った際、十分火が通っているのに中身が赤いままのことがある。玉ねぎに含まれる成分が、まれに発色反応を起こすのだ。ご家庭で作ったハンバーグがちゃんと焼いたのに赤いままだったら、発色反応の可能性を疑ってみてください。
※ 正しくは「無塩せき」

公益社団法人全国食肉学校 総合養成科第49期卒業
(有)岸商店(精肉店・東京都品川区)店長
五十嵐達雄