[論説]基本計画の骨子案 適切で意欲的な目標を
近年、政府全体で計画・実行・調査・改善という「PDCAサイクル」の徹底に加え、根拠に基づく政策立案(EBPM)が提唱されるようになった。農政も恣意(しい)的な運営がなされないよう政策体系の整理と適切な目標・指標の設定が必要だ。
ただ、実際には、政策との因果関係がはっきりしない場合や、効果の検証に必要なデータが集まらないなど、指標を設定するのが難しい場合も少なくない。
骨子案を検討した1月の食料・農業・農村政策審議会企画部会では、委員から「目的と手段が逆になって、数字ばかりが増えて、本当に施策推進に必要なことができなくなってしまうと本末転倒だ」との指摘も出た。部会長を務める東京大学大学院の中嶋康博教授も「データが取りやすいものがKPI(指標)になってしまうのは避けなければいけない」とくぎを刺した。
心配なのは、農政の基盤となる農林統計の弱体化だ。かつては世界的に見ても緻密で評価が高かったが、人員削減のあおりを受け、調査項目の削減や外部化を余儀なくされてきた。農政の目標体系の見直しに合わせ、農林統計の立て直しも必要だろう。
机上でのデータ分析にとどまらず、地方組織を強化し、農村現場の声をしっかりと聞き、政策に反映する仕組みも今まで以上に求められる。
一方、複数の目標設定を明記した食料・農業・農村基本法改正案を巡る昨年の国会審議では、野党から食料自給率目標の「格下げだ」との批判が上がり、政府は「食料自給率の重要性が変わるものではない」(当時の坂本哲志農相)と答弁していた。
世界的な食料争奪の激化で、食料を海外から買えばよいという時代は終わった。食料安保を掲げたからには、国内で一定の食料を賄うという自給率目標の考え方をないがしろにしてはいけない。
政府は「産業の米」とされる半導体を確保するため、外国企業の誘致に多額の国費を投じているが、国内産業が衰退すれば国産に戻すのが容易でないことの証左だろう。
食料安保の確保へ、優先すべきは国内農業の強化を着実に成し遂げるための政策体系の再構築だ。農政推進には、農家と国民の理解も欠かせない。新たな目標設定に当たっては、生産現場と国民各層への丁寧な説明を求めたい。