[論説]相次ぐ家畜伝染病 地域で支え合う防疫を
近年、さまざまな家畜伝染病が国内で初めて発生したり、拡大したりしている。昨年は福岡県などでサシバエが媒介する牛のランピースキン病が発生。近隣国で発生し、国内では初発となった。淘汰(とうた)やワクチンを使った対策で発生牛をゼロにはできたが、産地ではサシバエ対策などの取り組みを続ける。
春節休みの時期だけに、海外からのウイルス侵入と、既存の家畜伝染病の拡大に注意が必要だ。ただ、伝染病の多くはどこから侵入し、どう広がるのか読みにくい。農家だけでの対策は限界がある。
酪農現場では乳牛のサルモネラ症が近年、拡大傾向にある。病原菌の保菌率は牛が密になりがちな大規模農場ほど高いとされ、同症が拡大する一因とみられる。封じ込めの鍵を握るのが、JAや行政などによる連携した対応だ。
北海道北部の酪農地帯では2023年、乳牛のサルモネラ症が発生した。子牛では下痢や発熱、妊娠牛では流産などを引き起こし、重症化すれば死に至る疾病だ。農家だけでなくJAや市町、道の農業改良普及センター、NOSAIが連携し、発生が2戸の時点で警戒を強化。発生農場での防疫対策を進めると同時に、関係機関や他の酪農家とも情勢を共有した。地域の関係者が一丸で対応したことで、わずか2カ月間で終息につなげた。こうした関係者の連携は、多くの酪農・畜産地帯の参考となるだろう。
牛だけではない。今シーズンは高病原性鳥インフルエンザの発生が止まらない。農水省によると、昨年10月に国内1例目が確認されて以来、発生は14道県に広がり、殺処分は約900万羽に上る。野生のイノシシが媒介する豚熱も、初発から6年以上が経過してもいまだに終息していない。農家は日々、神経をとがらせて防疫対策を続けているが、それでも完全に抑えきれないのが現状だ。
家畜伝染病が発生すれば、経営は大きなダメージを受ける。治療などの費用がかさみ、肉や生乳、卵などの出荷に制限がかかるケースもある。場合によっては家禽(かきん)や家畜の淘汰を余儀なくされ、精神的な苦痛も大きい。飼料高騰などで酪農家戸数は1万戸を割り、畜産も危機に陥っている。伝染病が発生しても、迅速な封じ込めと再開を後押しする手厚い支援、地域の支え合いが必要だ。