[論説]トランプ関税 日本農業への影響防げ
トランプ大統領は上下院合同会議の施政方針演説で、「米国は何十年も、ほぼ全ての国から搾取されてきた。次はわれわれの番だ」と述べ、関税引き上げに強い意欲を示す。米国の貿易赤字は、2024年は前年比14%増の1兆2117億ドル(約185兆円)と過去最大になった。赤字は中国が最多で、次いでメキシコ、ベトナムが続く。
関税引き上げは、自動車の輸入や麻薬の流入、不法移民などを抑え、米国の雇用や産業を振興する狙いがある。4日には中国に対し関税を大幅に引き上げた。カナダやメキシコにも、方針を二転三転させながら圧力をかける。4月2日に発動予定の相互関税は、輸入品にかける関税を相手国と同水準に引き上げたり商慣行などの非関税障壁を問題視したりするもので、日本も対象となる公算が大きい。
懸念されるのは、農畜産物の取り扱いだ。米国は、23会計年度以降、農産物全体の貿易赤字が増加している。この赤字解消の一環で、米国産農畜産物の一層の輸入を日本に求めてくる可能性がある。茨城大学の西川邦夫准教授は「米国は農産物分野で貿易赤字になっており、注視しなければならない」と指摘する。
20年1月に発効した日米貿易協定で日本は、米や乳製品などの重要品目は除外したものの、環太平洋連携協定(TPP)並みの大幅な自由化に踏み切った。その結果、国内の生産基盤の弱体化は進み、これ以上の市場開放は、農業をさらに衰退させる。
そもそも、日米間の農畜産物貿易では金額も量も米国側が圧倒的な黒字であり、貿易赤字の多くは自動車とその部品によるものだ。赤字を解消するというのなら自動車分野で解決を目指すべきで、農畜産物を貿易赤字の解消材料にすべきではない。
日本は食料・農業・農村基本法を改正し、生産基盤強化や自給率の向上を目指している。農林水産物・食品の輸出にも力を入れる。これ以上、米国産農畜産物の輸入を増やせば、日本の農業と農村の衰退は一層進み、到底、受け入れられない。中国との貿易摩擦のはけ口を日本の市場に向けるのは、お門違いだ。
WTOでは一方的な関税引き上げはルール違反となる。中国はWTOに提訴し、全面的に争う構えを見せる。日本政府の毅然(きぜん)とした対応が求められる。