それからはや12年。巷では「リスキリング」という言葉がよく聞かれるようになった。社会人が新たなスキルを学び直し、自己のキャリア形成に役立てようという動きだ。自分の経歴はまさにこの「リスキリング」そのものなのだが、正直私はこの言葉、あまり好きではない。
現状の「リスキリング」という言葉には、労働人口をITなど成長産業に振り分けたいという意向が透けていて、いわゆる「手に職」的な仕事への移動があまり考慮されていない印象がある。成長産業ではなくても、世の中に不可欠な仕事はいくつもあるのだが。
閑話休題。さて私が「リスキリング」した全国食肉学校は、群馬の最寄駅から徒歩1時間半の場所にある全寮制の学校で、毎朝の朝礼で校歌斉唱と校旗掲揚、夜は門限19時45分、ほぼ毎日脱骨などの実習ができるという学校だ。若い同級生は「軍隊だ」「刑務所だ」などとぼやいていたが、社会人経験の長い私にとっては天国だった。締切もノルマもなく、上げ膳据え膳で勉強だけしていればいい。こんな恵まれた環境はないと若い連中に言ったことはあるが、皆ポカンとしていた。まあ、オッサンになれば分かるさ。
というわけで、私の学び直しは第2の青春みたいで大層楽しかった。その経験もあり、密かに温めている夢がある。新卒で20年サラリーマンをやったのが人生1周目なら、40歳で学び直し肉屋をやっている今が2周目。20年肉屋をやり通して60歳になったら、また新しいことを学び直して、人生3周目を始めたい。それが肉に関わることかどうかは分からないし、現状では目の前の仕事で手一杯なのだが。
まあ経験上新しいことに挑むのに年齢は関係ないが、健康とある程度の体力は必要になる。とりあえず、筋トレはしておきますか。

公益社団法人全国食肉学校 総合養成科第49期卒業
(有)岸商店(精肉店・東京都品川区)店長
五十嵐達雄