[論説]米国の相互関税と日本 農業への悪影響許すな
米国は貿易赤字が膨らみ、2024年は約1兆2000億ドル(約185兆円)と過去最大に膨らんだ。トランプ大統領は「われわれの生活を脅かす国家非常事態に当たる」とし、関税措置で「(米国経済を)復活する」と強調した。
相互関税は、安全保障上の脅威に対する国際緊急経済権限法に基づくもので、中国には34%、韓国には25%、欧州連合(EU)には20%をかける。これとは別に、輸入車には25%の追加関税を導入した。各国の反発は必至であり、「貿易戦争」につながる恐れがある。
日本に24%の関税をかける根拠については、日本が米国からの輸入品にかけている関税が平均で46%になっていることを挙げた。その一例としてトランプ大統領は、日本の米を引き合いに出し、「700%の関税を課している」と言及した。高関税を印象づけようとするもので到底、容認できない。
米国の貿易赤字の大半は自動車とその部分品、半導体など工業製品によるものだ。農林水産物は、米国が圧倒的な貿易黒字であり、米の関税を持ち出すのは筋違いである。
日本が外国から米を輸入する場合、WTO協定に基づき、年間77万トンものミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)と1キロ当たり341円の関税をかけている。第1次トランプ政権時に締結した日米貿易協定でも認められ、共同声明で「協定が誠実に履行されている間、協定と共同声明に反する行動を取らない」としていた。米国の姿勢は、約束を反故(ほご)にするものだ。
「相互関税」の公表に先立ち米通商代表部(USTR)は、日本の牛肉やジャガイモなどの検疫体制も問題視した。今後、非関税障壁として圧力も強まるとみられる。
日本の農業は、幾多の貿易自由化の結果、生産基盤は弱体化し、食料自給率(カロリーベース)は38%に低迷している。政府・与党は、農林水産物・食品の輸出に力を入れ、30年までに5兆円を目指す。茨城大学の西川邦夫教授は「日本の米輸入制度がターゲットになっていることは明らか。輸出戦略の見直しが迫られる」と指摘する。
自動車産業を守るために、日本の農林水産物、農業・農村を犠牲にするようなことがあってはならない。