[論説]増える買い物困難者 多様な業界巻き込もう
利用者の減少、運転手不足などで、バスや鉄道などの移動手段が失われつつある。路線バスはマイカーの普及で需要が減少。国交省によると一般路線バスの輸送人員は1960年代に100億人を超えたが、2022年度は30億人台まで減った。
コロナ禍などで落ち込んだ輸送人員や運送収入も回復していない。運転手不足でバス事業者は、路線や便数の維持が難しくなっている。昨年度末も廃止や減便が相次ぎ、タクシー業界も運転手と車両数、輸送人員の減少が続く。
内閣府によると、自動車を持たない若者と運転免許を返納した高齢者を中心に、移動で困難を感じる人が多くなっているという。
交通手段がなければ、買い物の機会は減り、地域経済は停滞する。高齢者は通院を控えざるを得ず、健康への影響も懸念される。若年層が都会に流出するきっかけにもなり、早急な対応が必要だ。
農水省が24年に実施した買い物困難者に関する全国調査でも、1033市町村のうち9割に当たる910の市町村が「対策が必要」と回答しており、支援を求める市町村は増え続けている。
重要なのは、生活の質を維持できるサービス展開だ。その一つが「移動販売車」。JAおきなわAコープは、移動購買車「あじまぁ」号6台を本島や宮古島など各地で運行し、買い物に加えて利用者の会話の場を提供する。エーコープみやざきは1月、買い物支援と地域の見守りのため、移動スーパーの運行を日南市で始めた。市内150カ所を回り「とても助かる」などの声が相次いでいる。既に県内で17台稼働している。利益は決して多くないが、地域の暮らしを支えることこそ、JAの使命となる。
課題は、買い物困難者対策を必要としながら、対策を取れない市町村が1割に上ることだ。「財政上の問題」「対策が分からない」「人材不足で受託事業者がない」などが理由だが、JAで活用が進む移動販売車やコンビニによる地域共生型店舗、ドラッグストアによる移動販売などを参考に、地域に合った手法を早急に取り入れてほしい。
行政やJAだけでなく、多様な業界を巻き込むことが課題解決の糸口となる。地域の「困った」を、チャンスと捉えることがJAの新たな事業展開にもつながる。