[論説]多発する熊被害 山菜採りは対策怠るな
環境省によると、熊による人身被害は、北海道に生息するヒグマより本州以南のツキノワグマによるものが圧倒的に多い。2004年度に100人を超えて以降、熊の出没が多い年ほど人身被害が増える傾向にある。ブナなど堅果類の不作で熊の出没が相次いだ23年度は198件、219人が被害に遭い、6人が死亡した。24年度は3月6日現在で人身被害は85人、うち3人が亡くなった。
特に多いのは東北で、甲信や北陸と続く。中でも熊が冬眠から覚める春期(4~6月)は、ほとんどの地域で出没件数が増加しており、注意が必要だ。同省の分析によると、山菜やキノコ採りで山に入ったところを熊と遭遇し、人身被害につながるケースが圧倒的に多かった。人の生活圏では、農作業中の被害が最多で、中山間地域の農家ほど危険性が高いと言える。
被害を防ぐためには、熊が人の生活圏に出没する要因を取り除くことが重要だ。まず、熊を誘引する生ごみは屋内で保管したり、農作物の残さは土中深くに埋めたりする対策が有効だ。住宅や農地と接する山林や耕作放棄地の草は刈って見通しを良くし、“緩衝帯”を設けることもポイントとなる。既に対策に取り組んでいる農家や地域は多いが、熊の出没が増える時期だけに、改めて徹底しよう。熊の存在に気付いた時は、慌てずに落ち着いて静かに立ち去るなど、取るべき行動をあらかじめ確認しておこう。
近年は市街地に熊が出没したり、建物内に長時間とどまったりする例が相次いでいる。秋田県鹿角市では19年、地元猟友会のメンバーらが熊に襲われたにもかかわらず、住宅に近いため発砲できない事例があった。このため今国会で鳥獣保護法改正案の審議が進んでいる。緊急に危害を防ぐことが必要で、住民の安全が確保できているなどの条件を全て満たしている場合、市町村がハンターに銃猟(緊急銃猟)を委託できるのが柱だ。
住民や狩猟者の命を守る同法改正は一歩前進と言えるが、肝心の狩猟者は減少しており、課題も多い。奥羽山脈や北上山地を抱えるJAいわて花巻では、狩猟免許の更新にかかる経費を助成する鳥獣被害対策を新設した。
熊の出没時期だけに、政府や自治体には、狩猟者育成の後押しや鳥獣害対策への一層の支援拡充を求めたい。