[論説]大阪・関西万博が開幕 農業もワクワクさせて
会場の夢洲は、大阪湾にある390ヘクタールの人工島。建設残土や一般のごみを処理する最終処分地だった。造成後の使い道が定まらず、五輪会場にする案も出たが、北京に決まったため誘致に失敗。「負の遺産」とも呼ばれていた。
万博開催が決まってからは資材価格が跳ね上がり、建設費が当初計画のほぼ2倍に。展示の目玉「空飛ぶクルマ」は3月末、商用運航を断念。開催前から何かと「負のイメージ」が先行してきた。
ウクライナやパレスチナの紛争、ミャンマーの大地震などで多くの命が失われている時に、テーマの「いのち輝く未来社会」に世界が没入できるのか、懸念もある。個人の嗜好(しこう)は多様化し、誰もが万博に関心を持つ状況でもなくなった。高度経済成長期に開催し、未来に夢が持てた1970年の大阪万博とは、社会情勢が様変わりしている。
世界情勢の変化を反映してか、入場券の売れ行きも低迷。販売目標2300万枚のうち1400万枚を前売りで確保する計画だったが、3月中旬で1000万枚強にとどまっている。どうもワクワク感が足りないが、開催するからには、最大限の効果を挙げてもらいたい。
テーマと関連し、「食」にまつわる展示も多い。会場を訪れる外国人に日本の「食」に目を向けてもらえれば、今後の農産物や食品の輸出戦略に展望が開ける。国内からの来場者には、「食」の根源である日本の「農」の今に目を向ける工夫がほしい。
会場には、世界の食卓を紹介する展示が計画されているが、インバウンド(訪日外国人)の関心は日本食。定番のすしや注目のおにぎりも、国産米が支えている。「令和の米騒動」の現実と、どう向き合うのかも問われている。
日本人が一生に食べる鶏卵の数を視覚化した展示も準備されている。1人当たりの鶏卵消費量は、世界トップ級。大阪名物のお好み焼きの他、外国人に人気のすき焼きにも卵は欠かせない。しかし、世界的に鶏卵が高騰する中での展示だけに、「食」にも負のイメージがつきまとう。そうしたイメージを乗り越え、どのように「輝く未来社会」へつなげるか。来場者に夢を、農業の未来にワクワク感をもたらす万博であってほしい。
少なくとも閉幕後の決算で、国民にしわ寄せが来ることだけは避けてほしい。