写真のサーロインは1切れ800g以上あり、肉は軟らかく、脂は黄色く、ナッツのような熟成香が素晴らしい逸品でした。この牛肉は、IGP(地理的表示保護制度)で保護されており、長い歴史を通じて同じ品質の肉を作り、食べ続ける覚悟に驚かされます。「改良なんか眼中にない」牛肉だと言えます。ほとんど地元で消費されるので、海外からこの牛肉を目当てに観光客が訪れているのです。
一方で、和牛は「外国の牛肉に負けないため」にサシを中心に改良を重ねてきましたが、美味しく「食べ続けて」こられたでしょうか?
日本での牛肉食は歴史が浅いといいますが、近江牛の産地では、「じゅんじゅん」という鍋料理があります。この郷土料理はもともと、琵琶湖のウナギやナマズなどの魚と季節の野菜を醤油だけで鍋で煮るという素朴なもので、次第に牛肉も材料となり、すき焼きの原型とも言える、地元で愛される料理になっています。この伝統が「すき焼きは家で作る」という近江牛産地のポリシーを支えているように思えます。この話を紹介して下さった近江牛生産者の中川晶成さんは、こうした地元のお客さんが愛して求める雌牛肥育に拘り続けるのだとも仰ってました。
極限まで改良された和牛。輸出も大事ですが、日本でこそ美味しくたくさん食べることができる「新たな和牛食」の提案が今こそ必要だと思います。伝統を越えて革新へ!
元農水省畜産部長
原田英男