[論説]改正土地改良法が施行 負担減へ幅広い議論を
同法は、国や都道府県の提案に加え、施設を利用する農家の申請や同意、負担がいらない「急施の事業」の対象も拡大する。地震や水害で破損した水利施設の復旧だけでなく、洪水を防ぐ工事なども急施の事業に加える。農業用水のパイプラインなどの突発事故の際、復旧と併せて近くのパイプラインでも類似の事故が起きないようにする工事も対象に加えた。
改正の背景には、水利施設の老朽化が加速していることがある。農水省によると2021年度末時点で国営、県営などを含めた基幹的農業水利施設2万3539カ所のうち、標準耐用年数を超過した施設は53%、今後10年で超過する施設を加えれば69%と、約7割となる。老朽化や災害などによる22年度の突発事故は1623件と1日当たり平均4件以上が発生しており、農業に大きな影響を及ぼす。
それだけに施設の更新は急務だが、多額のコストが課題だ。同省によると標準耐用年数を超過した施設の再建費用は19年度時点で5・6兆円。29年度末までに耐用年数を超過する施設を加えれば8・4兆円に達する。建設に携わる人件費や資材費が高騰していることを考えれば、費用はさらに増える恐れがある。25年度の国の農林水産予算は全体で2兆2706億円。予算不足で施設の更新は難しく、応急措置をしながら使い続けるしかないのが現実だ。
更新に伴う農家負担も懸念材料だ。同省のガイドラインでは国と都道府県、市町村の負担を除いた農家の負担は国営事業で5%(北海道、沖縄・奄美を除く)、都道府県営事業は7%(北海道・沖縄・奄美・離島を除く)が目安。国や都道府県の提案で施設更新が始まったとしても「急施の事業」以外は、農家の負担が必要になる。
国や都道府県の提案で施設の更新を行う場合も、農家ら3分の2以上の同意が必要だ。受委託の拡大で耕作者は減少し、資材の高止まりで経営が苦しい中で「費用を負担できず、更新に消極的な農家も出るのではないか」と懸念する農家もいる。
江藤拓農相は「強引に(工事を)やることは決してあってはならない」と地域の合意形成が基本と強調する。更新は待ったなしだが、農家の負担をどう軽減するのか。国や県、地域の土地改良区、住民を巻き込んだ議論が必要だ。