[論説]畜産の温暖化対策 まずは生産性向上から
牛は胃の中で草を発酵させ、養分を吸収しやすい形に分解する。その過程でメタンガスが発生する。いわゆる牛のげっぷである。メタンガスは二酸化炭素(CO2)の28倍の温暖化効果があるとされ、批判の的になっている。
一方で、牛が温室効果ガスの削減に力を発揮している面もある。牛を放牧した草地は、土中のCO2の貯留量が増えるという。この他、人間が食べられない草を資源とすることで人間に食料を供給し、植物タンパクだけでは補えない栄養素も提供してくれる。人類への牛の貢献度は決して無視できない。
立場の違いもあり、牛に対しては賛否両論がある。だが一方的に牛の飼養を批判するだけでは、人類全体の生活を向上させながら、地球環境を改善する方向には進まない。良い面、悪い面の両方を正しく知り、正しく対応することが求められている。
米国の飼料添加剤メーカーが昨年、牛と人類の関わりを紹介するドキュメンタリー映画「牛なき世界」を完成させた。国内では6月5日の北海道帯広市を皮切りに、栃木県那須町、鹿児島市で上映される。映画は、批判だけでなく、牛の功罪両面を発信していくことの大切さを訴える内容になっている。
映画は一例だが、牛を飼育する畜産関係者も、現状やこれからの取り組みについて、根拠に基づいた正しい情報を発信し、消費者らへの理解を広めていくべきだ。
日本の温室効果ガス排出量は11億3500万トン。農水省によると、このうち農林水産業は4790万トンで全排出量の4・2%を占める。家畜の消化管内発酵によって生じる温室効果ガスはCO2換算で866万トンで、農林水産業の18%になる。これは日本全体の0・8%という数値だ。
日本の牛から出る温室効果ガスの数値をどう捉えるかは、立場によって違うだろう。もちろん削減に向けた努力は欠かせない。農水省はげっぷが少ない牛の育成など、研究面から対応を進めている。だが研究成果を待つまでもなく、生産現場で取り組めることはある。1頭当たりの生産性を向上させることだ。
具体的には、少ない飼料・資材で効率的に畜産物を生産することが、温室効果ガスの発生量を減らす。地球温暖化を防ぐ観点からも、生産性の向上を意識したい。