果樹の自然受粉を支えるマメコバチの急激な減少を受け、全国の産地では、人工授粉に追われる農家が増えている。しかし、人手不足は深刻で、産地を抱える各県は、適性な飼育・管理方法をまとめたパンフレットを配布するなど、個体数の回復と結実率の低下防止に懸命だ。
記録的な豪雪で多くのリンゴの木が損傷した青森県弘前市では5月上旬、あちこちの畑で農家が梵天(ぼんてん)を振るっていた。「本来は人の手が届かない花をマメコバチに任せて、下の方だけ人工授粉していたんだけど」。リンゴ農園の女性が授粉作業をしながら言った。

梵天は、長い棒の先に羽毛を円状に取りつけた授粉用の道具。果樹農家は、授粉する品種とは別の品種の花粉を石松子(増量剤)に混ぜて使う。人工授粉した花は石松子の濃いピンク色に染まるため、重複せずにすむ。
ただ、リンゴの場合は中心花を狙って花粉を付けるため、慣れていなければ作業は長時間に及ぶ。「電池式授粉機もあるが、すぐには手に入らない。今年は全ての木を授粉するのは無理」と言った。
「古くなったヨシは天敵のカツオブシムシやコナダニの増殖につながるので、3年を目安に交換が必要」。長野県は、結実率の低下を防ぐため、凍霜害対策と共にマメコバチの飼育・管理や人工授粉の方法を図解したパンフレットを県内の全産地に配布した。
かやぶき屋根の時代、野生のマメコバチの多くは、屋根の材料に使われているヨシの中に営巣していた。現在は農家がホームセンターなどでヨシを買い、適当な長さに切りそろえて束ね、畑に設置して飼育しているケースがほとんどだ。
リンゴの樹間を1メートルほどと狭くして多くの実を成らす高密植栽培の面積が、全栽培面積の1割弱と全国で最多の同県は、授粉により多くの人手がかかる。同県園芸畜産課の担当者は「全てを人工授粉するのは限界があり、マメコバチは大切な存在」と強調した。
パンフレットには、人工授粉について「10アール当たり1万~1万5000の花の花粉量が必要」と記し、慣れない農家にも摘花時期や授粉方法を分かりやすく説明している。
(栗田慎一)
