[論説]第75回全国植樹祭 森は国民の共有財産だ
植樹祭は、国土緑化推進機構と都道府県が共催する国土緑化運動の行事だ。当日は天皇陛下が出席し、お手植えやお手まき、記念植樹などが行われる。森林は国土の保全、水源のかん養、地球温暖化の防止、生物多様性の保全などの多様な機能がある。こうした豊かな機能を次世代につなぐことが重要だ。
日本政府は2020年10月、50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにして「脱炭素社会」の実現を目指すことを宣言した。実現には適切な管理を通して森林の若返りと、木材の利用が欠かせない。
日本では古くから森林の資源を生かした農業が営まれてきた。代表的なのが、埼玉県の三富地域(川越市など5市町)の伝統農法「武蔵野の落ち葉堆肥農法」だ。江戸時代から多くの広葉樹を植えて平地林として育て、落ち葉を掃き集めて堆肥にして畑に入れ、土壌を豊かにする循環型農業が300年以上続いている。同農法は23年、世界農業遺産に認定された。
林野庁によると、国内の森林の約6割は山村にあり、全人口のわずか2・5%でその管理を担っている。高齢化率は40・6%に上り、全国平均の28%を大きく上回るのが実情だ。森の守り手が不足する中、実効性のある取り組みとして注目したいのが、行政機関と企業などとの連携だ。
北海道は、民間企業・団体と道内市町村の森林所有者を結びつける「ほっかいどう企業の森林づくり」制度を創設した。07年度からこれまでに延べ84件が締結され、植樹や下草刈りなどによって約1000ヘクタールの森林が整備された。道内の森林面積の0・02%と、わずかではあるが植樹・育樹を通して、接点のない都市住民に森林整備の重要性が浸透しているという。
23日には、改正森林経営管理法が成立し、地域の関係者で森林経営の将来像を話し合う「集約化構想」が新設された。意欲ある担い手の育成につなげたい。
森林の多様な価値を生かしながら、都市と農山村の関係人口を増やす機運を高めていくことが重要だ。
国や都道府県、企業、JA、森林組合などの連携を強くし、体験や学びを通して森林の未来を考え、行動する人材を育成したい。先人からの財産である森林を次世代に守りつなごう。