[論説]岐路の政府備蓄米制度 安保強化へ将来像示せ
政府備蓄米の運用は1995年に始まった。記録的な不作で米不足に陥った93年の大冷害の経験から、食糧法に位置付けられた。当初は、数年後に主食用に販売する「回転備蓄」方式を採用。2011年度から、5年後に飼料用などの非主食用に販売する「棚上げ備蓄」方式に転換した。
適正な備蓄水準は100万トンとし、10年に1度の不作や災害に備えてきた。ところがその役割が今年、大きく変わった。米不足や価格上昇を受け、農水省は1月、流通の不足時でも備蓄米を放出できるように見直した。これが現在は、明確な価格引き下げの手段となった。
江藤拓前農相は「行政が価格にコミット(関与)するというのは正しくない」との姿勢だったが、石破茂首相は備蓄米の放出を物価高対策に位置付けた。新たに就任した小泉進次郎農相は、政府が売り渡し価格を決める随意契約に転換、備蓄米放出を価格操作の手段として明確化した。
これは今後の備蓄米制度を議論する上で、問うべき論点だ。これまでの農政は、米価への国の関与を極力避ける方向で進み、生産数量目標の配分も廃止した。だが米価が上昇すると、備蓄米を使って価格に介入。与党内からも疑問の声が上がるのも当然だ。
食糧法は、需給と価格の安定を目指す。価格上昇時に備蓄米による介入を「是」とするのであれば、米価下落時にも積極的に活用し、米農家を支えるべきではないか。備蓄米は計81万トン放出される。25年産の主食用米の作付けは前年より40万トン増える見込みで、需給の緩和が懸念される。小泉農相は高騰と暴落、どちらにも対応することが「政治の使命だ」と述べている。具体策を求めたい。
残り10万トンとなる備蓄量の回復も課題だ。25年産は米の不足感から買い入れを中止。備蓄量回復の担保としていた買い戻し条件も緩和した。主食用米の価格上昇で、従来のように安定的に積み増せるかは不透明だ。備蓄に仕向けるためのインセンティブも議論する必要がある。米は主食であり、国内で唯一、自給できる穀物だ。備蓄への輸入米の流用は慎重であるべきだ。
政府は、米の安定供給に向けた関係閣僚会議を設置、備蓄米運用の検証や中長期的な米政策の具体化を加速させる。備蓄制度の在り方も、腰を据えて議論する必要がある。