

2月末の夜、豪雪地帯の米どころ、新潟県越後妻有地方。実業団女子サッカーチーム「FC越後妻有」の選手12人が、練習拠点の旧奴奈川小校舎でかす汁やサラダを熱々のご飯と一緒に食べていた。世界45カ国のアーティストが参加する「大地の芸術祭」の運営と棚田群の保全を担いながらサッカーをするNPO法人・越後妻有里山協働機構の社員だ。
そんな“三兎(さんと)”を追うつわものの食事をボランティアで支えるのは、高齢で離農したり定年後に帰郷したりした地元の人。過疎に悩む農村をサッカーをしながら元気にしようと全国から移住した若い選手を「孫のように」大切にする。
この日の給食を作った佐藤竹二さん(65)は、新潟市の総合病院を退職した5年前に父親の介護のため帰郷。チームの活動に感動し、昨年から月1、2度、自家製野菜を使って腕を振るう。サラダは野菜の水分が抜けないようオリーブオイルでコーティングする技術は「インターネットで勉強した」。
栄養管理とメニューの監修は、なでしこリーグで監督を務めた元井淳監督(46)が担う。「選手は日中、芸術祭の運営や農作業をこなした後、夕方から練習をする。毎日とても疲れるから、食事を選手自身に任せると、手軽なもので済ませがちになる。食はアスリートの基本。地域の方々の支えは本当にありがたい」と感謝する。
主将の石渡美里さん(30)は2歳の息子の口に運びながら満足そう。MFの大矢千尋さん(25)は「めちゃくちゃ幸せ」と始終笑顔。今年入社した新人選手の一人、奈良県出身の中島桃愛さん(21)は複数のチームの中から同FCを希望した。決め手は「入社体験の時、先輩の優しさ、地域の温かさ、そしてご飯のおいしさに感激したこと」だと笑う。