一部が抜け落ちてU字溝が露出するあぜに、農地から流れた大小の岩や土砂が転がる道路。棚田の原形も残さないほど崩れ落ちた田が眼前に広がる。「元日の地震の時もここまでひどくはなかったのに」。白尾さんが絞り出す言葉に、爪痕の大きさがにじむ。
9カ月の時間をかけて、ようやく収穫にこぎ着けた稲がある。27日には、脱穀を予定していた。被災の疲れが拭えない中、「一緒に直して千枚田を残そう」と互いに励ましながら再び復興の一歩を踏み出した。

豪雨被害の片付けに集まったのは白尾さんと妻の真紀子さん(40)に加え、出口彌祐さん(77)、山下博之さん(65)、竹上浩幸さん(62)の5人。小型の油圧ショベルやスコップで、岩や土砂の撤去作業に力を込める。
「今年産が終わったら、どっかに逃げたいね」。白尾さんが冗談のようにメンバーに投げかけると「そんなこと言わんと千枚田残していこうよ」「白尾さんを今度どっか連れてって一杯飲ませようか」「元気出してもらわなきゃね」と口々に励まし合う愛耕会の仲間がいた。震災後に愛耕会会長に就任。会員で最年少ながら、復興を引っ張ってきた白尾さん。「いろんな人に助けてもらってきたんだ」とかみしめる。
千枚田復興の歩みを始めた愛耕会だが、新たな問題も浮上している。活動拠点としていた道の駅「千枚田ポケットパーク」の被災だ。今回の豪雨で日本海側の駐車場が崩落。建物も危険度が高いとして、県と市は24日正午に閉鎖した。白尾さんは「災害は、千枚田だけでなく、復興拠点まで奪っていくのか」と天をにらむ。
(島津爽穂、撮影=鴻田寛之)