
「一味神水」の意味は、一揆などで契約を結ぶために神前で神水を飲み交わす儀式。三次市の合同会社安田農産代表社員で農家の安田剛さん(34)、広島市の空鞘(そらさや)稲生神社禰宜(ねぎ)の内田久紀さん(40)、同市の旭鳳酒蔵代表で杜氏の濵村洋平さん(35)がタッグを組んだ。3者とも担い手不足で、それぞれの役割を広く周知するとともに、お互いを盛り立てようと、取り組みを始動させた。
「一味神水」の特徴は、日本酒らしい味わいに加え、ライチや白ブドウのようなワインの香り。「春陽」は一般的な品種に比べてタンパク質の含有量が4、5%少なく、切れの良い後味に仕上がる。濵村さんが通常より4、5度低い10度で22日間じっくり発酵させ、深い味と香りを引き出した。

安田さんが生産した「春陽」は、「みえるらべる」で温室効果ガス削減と生物多様性ともに最高位の三つ星のを取得。自動抑草ロボット「アイガモロボ」を田植え直後の除草で3週間にわたって活用し、無農薬・無肥料で栽培した。
日本古来の神事を節目の行事に執り行い、完成までの全経過を三者が見守ってきた。田植え前の「お田植え祭」、収穫時の「抜穂祭」、酒造り開始前の「醸造始修祓(しゅうばつ)式」を行った。製造した全700本は神社へ3月下旬に奉納され、内田さんがはらい清めて完成した。
若者が目を引くシンプルなデザインにもこだわり、白抜きで杯を表現。商品欄には、稲作農家、祈願、日本酒の製造者名をそれぞれ表示。4月から700本(1本720ミリリットル)限定で、同酒蔵の蔵元で販売する。
「一味神水」の味などを毎年変えながら、広島を代表する日本酒を目指す。異業種の担い手3人は「取り組みを通じて伝統産業を次世代へつなげていきたい」と力を込めた。
(西野大暉)