[特集 JA-DXセミナー]デジタルで協同を強く
好循環の起点に
・あいさつ 日本農業新聞常務・田宮和史郎
JAがデジタル化に取り組む意義を問い、たどり着いたのが「デジタルで協同を強くする」です。デジタルを使って組合員とのつながりを太くする。今までつながらなかった人とつながる。そうなれば必ず好循環が起こります。私たちはそういうJA-DXを進めます。秋にはJAデジタル化推進協議会を設立する計画です。
まずは「S-DX」を
・基調講演 ITエンジニア・東武トップツアーズCDO・村井宗明氏
DXには二つあります。ハイスペック、ハイコスト、ハイユーザビリティーの「H-DX」。もう一方はシンプル、スリム、スマートフォン、SNS、セキュリティー、スピーディーの「S-DX」。こちらをお勧めします。組合員とJA職員、みんなが使えるところを最優先しましょう。
総務省によると国民全体で、ホームページよりSNSの方が利用時間が長い。一番使われるのがLINE。次がユーチューブ。この二つを使いこなしていただきたい。
誰でもできるのが「S-DX」。最先端、高性能、高額はやめましょう。人材育成も、ノーコード(専門言語を使わないプログラミング)で養成しましょう。JAの強みは農家と顔の見える関係があることです。誰でも使えるデジタルを融合させて、真の農業DXを実現しましょう。
むらい・むねあき 衆院議員を3期、文部科学大臣政務官を務めるなど行政デジタル化の専門家として活躍。政界引退後はヤフー、LINEなどを経て現職。
RPAで購買を変革
・基調講演 合同会社JSR代表(元山口県・JA下関常務)藤川信久氏
DXとは組織の文化や風土の改革を進める付加価値の創造だと、私は捉えています。
JA下関時代に自己改革の本丸、営農経済事業のデジタル化に取り組みました。具体的には、生産資材購買でのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とOCR(光学式文字読み取り装置)の活用です。
成果として、組合員の予約注文書の入力作業を半自動化し、労働時間を80%削減しました。そして、資材の取扱数量が20%増えました。加えて業務品質の向上、ノウハウの属人化の解消、組合員データの集積・分析活用、高付加価値業務へのシフトといった価値創造が起こりました。
次にRPAを使って生産部会員一人一人の販売実績データを基にした営農提案書を作りました。指導員が巡回訪問で説明します。これが評判を呼んで、農家との関係性がぐっと深まりました。
ふじかわ・のぶひさ 山口県の旧JA下関の元常務。JA役員時代、RPAを使った生産資材購買部門の改革や営農指導の改善に携わる。
ITの困り事も解決
・基調講演 JAぎふ組合長・岩佐哲司氏
デジタル化で目指すのはコミュニケーションと事務の効率化です。地元ベンダーと「戦略箱」というシステムを作りました。営農担当にタブレット端末を貸与し、情報共有に使っています。病害虫診断のアプリを入れて、現場で答えられるようにしました。
水稲資材の予約は人工知能(AI)で処理します。4000件の注文は2人で1日2時間、5日ほどで終わります。
全職員にスマートフォンを配りました。人事異動もアナログではできません。アプリの活用を考えています。ユーチューブは職員間の勉強に活用しています。デジタル組合員証も検討しています。
組合員の悩み事を総合事業で解決するのがJAの仕事なので、ITのところもJAが解決する使命があると思います。志を同じくする皆さんと一緒に進めていきたい。
いわさ・てつじ 組合員との対話時間を確保する一環で、事務作業のデジタル化を推進。全職員へのスマホ、営農担当者へのタブレット配布などを主導。オンラインで参加。
「役に立つ」実感が鍵 導入の先を定めて 組織の風通し良く
・パネルディスカッション「手が届き、無理なく始められるDX」
■モデレーター・田村政司氏(JA全中教育部次長) 「手が届き、無理なく始められるDX」をテーマに意見交換したいと思います。スマートフォンやLINEを使ったシンプルなDXでも、JAでは進まない実態があります。村井さんはどう対応すべきだと考えますか。
■村井氏 LINEを使いつつ、運用側は「この人は青年部でITに強い」「この人は米を作っている」という(組合員の)データベースを持つ必要があります。
データに基づいて届ける情報も変えていくことがポイント。それを間違えると「自分には関係ない」と抵抗感が生まれてしまいます。組織の意思決定者には、有用なデータを見せると応援団に変わることがあります。
■田村氏 JAでRPAを導入した藤川さんに伺います。どこがポイントでしたか。
■藤川氏 プロジェクトチームを立ち上げたことが、業務や職場の変革につながったと思います。その人選には神経を使いました。ただ若い職員を集めるだけではうまくいかない。改革に前向きでITリテラシーを少しは持っていることに加えて、あの人が言うならと職場が納得する、影響力のある人を選びました。
新しいことを始めるには“機”が肝要。JAのデジタル化は今がその時です。それから、丸投げではなく、ある程度内製化をすべきです。
■田村氏 システムを作っても使いこなせないケースもあります。費用を回収し、収益を得ていくDXの実現には何が必要か。米原さん、いかがですか。
■米原圧史氏(プリマジェスト JAプロジェクトマネージャー) RPA導入支援でJAと関わって思うのは、目標と目的の定義が重要だということです。最初に悩みを聞くと、入力業務を楽にしたいと。でも、よくよく聞いていくと、効率化したい理由が他にあります。組合員との関係を強化する時間をつくりたいのです。業務の簡素化という目的の先にある目標と絡めて捉えると、かみ合う検討の仕方ができると思います。
■田村氏 参加者から「JA職員へのスマホの貸与について聞きたい」という質問が来ています。JAぎふは、いち早く全職員1000人への導入を進められました。岩佐組合長、その狙いをお聞かせください。
■岩佐氏 日常と仕事とは違う世界に生きている、ではいけない。個人スマホを使うことも検討したが、セキュリティーの問題があります。職員は2台持ちになって嫌でしょうが、あえて2台に。
常にJAの情報が手元にあることが大事です。今までは支店長しか分からなかった情報を1年生でも見られる環境にする。中間管理職からの部下への伝達の仕事はなくなる。これをすることで、組織はフラットになり、風通しが良くなっていくと思います。
※よねはら・あつし JAに精通するITベンダー(供給元)。全国の複数JAで、RPAを使った事業改革のサポート、コンサルタント業務を務める。パネルディスカッションから参加。
6月15日(水)午後1時からセミナー第2弾「もう始まっているデジタル革命 営農経済事業でイノベーションを興す」を開催します。LINE公式アカウントの「友だち追加」画面 https://line.me/ti/p/%40187isopu からお申込みください。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=4FQ81293DRQ