日本農業新聞は6月15日、JAの事業・業務を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の意義や活用事例を共有する「手が届き、無理なく始められるJA―DXセミナー」の第2弾をオンラインで開きました。今回のテーマは「もう始まっているJAのデジタル革命~営農経済事業でイノベーションを興す」。事務作業のコスト削減や販売額の増加など、DXを活用して営農経済事業に革新をもたらした事例と、そのノウハウを共有しました。JAやIT企業の関係者ら224人が参加しました。
RPA活用 出向く時間充実 熊本・JA菊池総合企画室長・安武義徳氏

小さな成功事例を積み上げ、横展開する「スモールスタート」という位置付けで、2020年7月に女性部を対象とした共同購入で始めました。その結果、(事務作業は)1400時間超から200時間に減り、供給高も増えました。生産資材の予約購買でも9品目で実施し、872時間が121時間に減りました。供給高は4700万円ほどアップしました。
削減した時間で組合員の元へ出向くようにしています。紙の注文書は出向くためのツールになります。「対応はアナログ、処理はデジタル」と考えています。
山口県のJA下関(当時)に視察に出向き、「スモールスタートが大事」との助言を得て購買部門のRPA導入を推進。今後は経営分析や人事管理などのデジタル化を予定。
スマホで手軽に売り先確保 やさいバス営業統括部長・梅林泰彦氏

生産者はスマートフォンなどで手軽に商品を登録します。「販路拡大につながった」「配送コストが下がった」との声が届いています。
JAとの取り組みも進めています。茨城県のJAやさとは有機栽培の部会があり、出荷場にある優れた野菜を何とかして届けたいと、話が始まりました。タブレット端末を貸して、LINEでやりとりしながら商品の写真を送ってもらい、売り先に見せて「曲がっててもいいですか」と聞きながら販売につなげました。
「やさいバス」は、イノベーションネットアワード2022の会長賞を受賞。各地のJAとも連携し、JA側の利点として「買い手の声が直接聞けること」を挙げる。
情報発信 アナログと融合も Kamakura Industries社長・原雄二氏

当初、「ファクスでやりとりする時代は終わり」と紹介していたのですが、現場に行くと、どうやってもファクスはなくせない現実を目の当たりにしました。そこで、ファクスとも融合させたシステムもゼロからつくりました。受け手がスマホでも、ファクスでも問題ないシステムです。
JAコネクトによって、JAが組合員に情報を届けるストレスから解放できたと思います。JAには今後、組合員に何を届けるか、中身の充実を考えることに時間を割いてほしいです。
ITエンジニアを経て個人事業を開始。自ら開発した「JAコネクト」「1日バイトアプリ デイワーク」は各地で広がる。アグベンチャーラボ第4期イノベーティブ賞受賞。
<DXとは>
司会、日本農業新聞論説委員長・鈴木祐子 皆さんやJAにとって、DXとは何か。事前に書いていただきました。
安武氏 「人づくり」。業務を省力化するためのアイテムの一つとしてDXを使っていく。協同組合の基本はやはり「人づくり」。DXが人づくりにつながると考えています。
梅林氏 「持続可能な農業」。畑にいる時間を増やしたり、安全に運転して物を届けたり。そういう積み重ねに必要なのがDXで、その先に持続可能な農業があると思います。
原氏 「食料確保の手段」。JAグループの取り組みもあって365日、素晴らしい野菜がスーパーに届く。食料生産を維持するため、ITやDXを使うという意味を込めました。
鈴木 DXは農業を変えるツールになり得ると思います。DXを活用するにはJA職員が事業・業務の課題を正しく理解し、ITデジタルで何ができるか想像し、それをIT企業に正しく説明できる人材が必要だと感じました。皆さん、本日はありがとうございました。
意識調査 組合員つなぐアプリ要望
JAの営農経済事業でデジタル技術をどのように活用したいか、JA関係者にアンケートをすると、組合員とつながるためのスマホアプリ導入がトップとなりました。予約注文などの事務作業の軽減、書類のペーパーレス化を求める声も出ています。
本紙JA―DXセミナー第2弾のJA関係の参加者にアンケートを実施。102人の回答を分析しました。
営農経済事業で検討したいデジタル活用について尋ねると、最多が「JAと組合員をつなぐスマホのコミュニケーションアプリの導入」の52%。職員数の減少、支所の統廃合で組合員との物理的距離が広がるなどの課題に直面する中、デジタル技術を活用し、組合員との関係を強くしたいと望むJA役職員は多くなっています。
次いで「事務処理へのOCRやRPAの導入」が51%、「伝票処理のペーパーレス化」が45%。予約注文や仕入れ管理などの事務作業の効率を向上させたいというニーズも高くなっています。

7月29日(金)午後1時からセミナー第3弾「コミュニケーションアプリでつながる」を開催します。LINE公式アカウントでセミナーの最新情報を配信する他、「JA-DX」に関する記事も閲覧できます。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=1gCv0kDVyEs