私は北海道の東川町出身です。父は北海道職員でしたが、祖父母は農家をやっており、祖父母の家で一緒に暮らしていました。小さい頃は米作りを手伝いました。今思えば、手伝っていたのかかき乱していたのか分からないんですが。
家には、おやつがほとんどなかったんです。お菓子といえば、きな粉ねじりがあるくらい。祖母が炊いたあんこにも飽きて……。
何か変わったものを食べたくなって、ある日、マヨネーズを持って畑に行きました。もぎたてのキュウリがおいしいことは知っていたんです。でももっとおいしい食べ方はないか、もぐ前の方がおいしいんじゃないかと思ったんですね。そこで、ぶら下がっているキュウリにマヨネーズをちょっと付けて、そのままかぶりついてみたんです。うまい! かじったら水分がものすごい勢いで出てきて。それをチューチュー吸っては、実を食べました。
この体験が、今の私の活動の原点といってもいいと思います。
2008年から「あぐり王国北海道」という番組に出演させていただいています。最初の7年ほどは、札幌の小学生4人くらいと地方の畑に行き農業体験をしたり、時には命をいただくことについて学びました。
15年も続きますと、宝のようなエピソードにも出合います。
初年度のことです。トマトが大嫌いな子を集めて、平取町にもぎたてトマトの取材に行きました。ハウスの中で私が1個もいで、かぶりつき、「うまい! 濃厚だ。このジュースはたまらない」と言うと、子どもたちは「いいなあ、自分も食べてみたい」と言ったんです。それで子ども自身にトマトを選ばせ、もがせたんですよ。そしてかじりついたら、「あれ、トマトってこんなにおいしいの?」と。ほんとのトマトのおいしさに気が付いてくれたんです。
そのうちの一人は、「僕が大嫌いなトマトを好きに変えてくれた。農業ってすごい!」と言ってました。その子は後に岩見沢農業高校から酪農学園大学に進み、今は農協の職員として働いています。それも平取町で、トマトをジュースにする加工場の責任者なんですよ。1個のトマトが彼の人生を変えたわけです。
私は番組の撮影で畑に行って、まだ土に植わったままのアスパラガスを食べたりします。子どもの頃のキュウリと同じで、もぐ前のアスパラガスのおいしいこと。
野菜は畑に行くと本物に出合えます。畑まで行けなくても、今なら産直市場など新鮮な野菜を扱う場所が増えています。子どもたちが野菜の本当のおいしさを知り、農家の方に尊敬や感謝の気持ちを持ってくれれば、うれしいですよね。
私は結婚する時、妻にお願いしたことがあります。「あんまり料理しないでくれないか」と。あまりに細かく切ることで、何の素材を使っているか分からない料理ってあるじゃないですか。そういうのは好きじゃない。素材が持つ味を楽しみたいんです。理想の食卓は、ご飯とおみそ汁に、アスパラガスそのままドーンとか、エダマメゆでただけとか、ピーマン炒めただけとか。
妻も理解してくれて、子どもたち3人と素材を味わっています。うちの子たちは、食卓に野菜がないと文句を言うんですよ。食育なんてほとんどしたことがないんですけど、本当の味がする野菜を食べていたら、自然と食育になったようです。
北海道の子どもたちには、野菜と米のおいしさを知ってほしい。将来の夢を聞かれたら「農家になりたい」と答えるようになってほしい。応援団長としてそう願っています。
もりさき・ひろゆき 1971年、北海道生まれ。96年、北海学園大学演劇研究会出身の大泉洋、安田顕、戸次重幸、音尾琢真と演劇ユニット「TEAM NACS」を結成し、リーダーを務める。2008年から北海道の食を見直す番組「森崎博之のあぐり王国北海道」(現「あぐり王国北海道NEXT」)出演。ごはんソムリエの資格を持ち、著書に「生きることは食べること 森崎博之の熱血あぐり魂」がある。