田舎ですから、虫もたくさんいます。でも私は虫を殺せないんです。近くに牛がたくさんいるのでハエも家の中にいっぱい入ってきますけど、殺せません。殺虫剤をプシューとかけるなんて、かわいそうでできない。私がやられたら、と思っちゃうんです。小さくても命。この子も生きているんだ、と。家の中で小さな虫を見つけると、ティッシュの上にのせて、外に逃がしてあげます。
でも矛盾するようですが、私が好きな食べ物は牛タンなんです。牛にあいさつするのに、虫を殺すこともできないのに、牛タンが好きでいくらでも食べたい。お祭りに行くと焼き鳥屋さんの屋台で、いつも串に刺した牛タンを食べていました。
20歳になったころからようやくご飯や野菜のおいしさが分かってきました。それまでは好きな食べ物といえばとにかくお肉。私は普段からよく料理をします。作るのは唐揚げやハンバーグといった肉料理ばかり。
唐揚げはよく作ります。二度揚げはしないで、高温で一気に中まで火を通す揚げ方です。他にもチキン南蛮や照り焼きなど、鶏肉を使う料理が多いですね。おとといも40分くらいかけて鶏ムネ肉を煮て、とっても柔らかい鶏ハムを作りました。鶏肉を使えばおいしい料理ができる。決して外さない食材だと思います。
最近はやっと野菜のおいしさが分かるようになりましたので、野菜を使った料理も作りますけど、ナスと鶏肉のみそ炒めのように、鶏肉と一緒に使うことが多いです。
今回、主人公を演じました「17歳はとまらない」という映画は、農業高校を舞台にした青春映画です。
農場をお借りして撮影させていただいたんですが、最初に「あ、この匂い、懐かしい」と感じました。牛の匂いがしたからです。鶏の鳴き声を聞けば、実家にいた頃よく聞こえていたことを思い出しました。
映画では「命をいただく」大切さも、テーマの一つです。私が他校の男子生徒に「ペットと家畜は違うんだよ」と言うシーンがあり、これは本当に私の心に刺さりました。食用として家畜を育てている農家の方々は、すごい覚悟を持っているのだと改めて思いました。
映画では、指導を受け、牛をブラッシングさせていただきました。自分が触れているこの牛もいつか出荷されるんだと思ったら、私の地元の牛たちに思いが至りました。
映画の中に私たち生徒が鶏をさばくシーンがあります。お湯に漬けて羽をむしり取り、さばく。とても貴重な経験をさせていただいたと思います。すごく心が苦しくなりましたが、私たちが生きていくために必要なこと。それだけに感謝の気持ちを持たないといけないと学びました。
撮影が終わって3カ月くらいは、鶏料理を作ることも食べることもできなかったです。撮影前までは、鶏肉は食材としての肉としか捉えていませんでした。でもその肉にも、さばかれる前には鶏として生きていた歴史があったと思うようになって。どうしても料理をする気になれなかったんです。
でも料理するようになったのは、やはり肉は私たちには必要なものだと思い直したからです。
以前から食事の前には「いただきます」と言っていましたが、今になって思えばそれはまるでルーティンのようなものでした。あのシーンを演じた後では、命をいただくという深く大事な意味があるんだと知り、ありがとうの思いを込めて言うようになりました。
いけだ・あかな 2001年、群馬県出身。映画「かぐや姫は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」(19年)、「彼女が好きなものは」(20年)、NHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリンピック噺~」(19年)、「青天を衝け」(21年)など話題作に次々出演。昨年公演の舞台「群盗」ではヒロインを務め、ドラマ「ふたりの背番号」では初主演を果たした。主演映画「17歳はとまらない」が8月4日公開。