おやつとして、ブリの刺し身にドレッシングをかけて食べていたくらい。まだ幼くて「カルパッチョ」を知らなかったけど、刺し身とドレッシングがよく合うことを知ったんです。おなかがすいた時に冷蔵庫を開けて、「あっ、昨日のブリ刺しがまだ残っとるけん、ちょっとドレッシングかけて食べよ」と。
すき焼きも、牛肉のすき焼きも出ましたが、うちではサバを使ったすき焼きがよく出て、そちらも好きでした。あと私が好きだったのは、わかめしゃぶしゃぶ。お湯にくぐらせた瞬間、鍋に鮮やかな緑が広がるんです。ワカメのモキュモキュした歯応えもよく、とてもおいしかったです。
冬は朝からカニのみそ汁を食べて、学校に行っていました。内子(卵巣)がたっぷり入ったセコガニを半分に割って、ダイコンとネギと一緒に入れていました。 地域では、食品の物々交換をするという文化がありました。近所のラーメン屋さんからギョーザをもらい、うちはイカを渡したりとか。外出先から帰ったら、玄関の軒下に白ネギが大量に置いてあることも。それを見て両親は、「これは〇〇さんだな。この間、魚をあげたから、それのお礼だな」と。次に〇〇さんと会った時に「この間、あんたのとこの軒下にネギを置いとったけど、分かったかいねえ?」「ああ、ありがとうございます。いただきました」という会話を交わすんです。物々交換を通して、近所の方と会話をする。皆で生きているという感じの地域だったと思います。
そうしたつながりは、今でもあるようです。私は日本テレビアナウンサー時代に、朝4時放送の「Oha!4 NEWS LIVE」という番組に出演していました。それを港の方がすごく見ていてくださったそうで。おかげで今でも父によると「港にまりえのファンがたくさんおるよ」。その方々が、私が帰省した時に「まりえちゃんに食べてもらって」と魚をくださるんです。先日帰った時も、グレという体長30センチ以上ある白身の魚をいただきました。 鳥取県は魚介類だけでなく、果物や野菜もすごくおいしいんです。
「二十世紀」梨は有名ですが、ほかに「新甘泉」という梨もあって。こちらは酸味がやわらかく、とてもジューシーです。私は秋になると、お世話になっている方に梨を配っています。あと、鳥取はスイカの名産地でもあります。皮が黒くしま模様があまり見えない「がぶりこ」というスイカは、種が少ないので食べやすいですよ。
野菜なら、まず白ネギ。境港から米子に行く汽車の沿線に、白ネギ畑が広がっています。他にも、ナガイモ、ラッキョウ……。四季がものすごくはっきりしているので農業に従事されている方は大変な思いをなさっていると思いますが、そのおかげでいろいろな食材が豊富にそろっていると思います。 私は中学時代に、友人と将来の夢を語り合ったことがあります。私はアナウンサーになりたいと言い、その子は「農家になりたい」と言っていました。
3年ほど前に、その子と空港でバッタリ会ったんですよ。大学で農業の勉強をしていると人づてに聞いたことはありますが、実際に会うのは中学の卒業以来でした。「仕事は何をしてるの?」と聞いたら、「農家」と。夢をかなえたんですね。
帰省した時に、もしかしたらその子の作った野菜を食べているかもしれない。そう思ったら、すごくうれしい気持ちになりました。
(聞き手・菊地武顕)
うえだ・まりえ 1986年、鳥取県生まれ。2009年、日本テレビにアナウンサーとして入社。16年に退社し、ラジオパーソナリティー、ナレーター、スポーツキャスター、ライター、講師など幅広く活動中。日本語検定委員会審議委員も務める。とっとりふるさと大使、境港フィッシュ(FISH)大使。出張や旅行で訪れた先では調味料を購入して帰り、あまたある調味料を気分で使い分けて料理する。