後になって分かったんですが、私はしょうゆとみそが好きではなかったんですね。私が生まれ育ったのは、福島県いわき市。しょうゆもみそもたくさん使い、ややしょっぱい味付けです。それが合わなかったんじゃないでしょうか。
いわきは港町で、大量に取れた魚をトラックに積んで出荷するんですけど、雑に積むのでトラックの荷台から魚が道に落ちてしまうんですね。落ちた魚は拾って家に持ち帰っていい。そういう暗黙の了解があったようなので、どこの家でも魚料理をたくさん食べていたと思います。
私も焼き魚が好きでした。しょうゆをかけずに食べていました。親からは食べ物を粗末にしてはいけないときつく言われていましたから、頭と中央の骨だけ残して、きれいに身を食べました。魚の食べ方については、自信があるんですよ。

仕事の関係で、海外にあちこち行かせていただくようになりました。東南アジア、ハワイなどの南国、米国、欧州……。各国の料理はおいしいんですけど、でも、「なんて、おいしいの」と、後味がふくよかに膨らむような感動がないんですね。どうしてだろう? そう疑問に感じていたところ、教えていただきました。海外の料理にはうま味がないからだ、と。
それでだしなどうま味についていろいろ調べ、すっかり日本食に回帰しました。料理をする時は、しょうゆ少なめ、だし多めにしています。たとえば卵焼き。福島では砂糖たっぷりの卵を焼いて、しょうゆをかけて食べます。でも西日本のだし巻きを知ってから、私の作る卵焼きはいつもだし巻きです。みそ汁も、福島ではみそそのものが濃く、だしよりもみその味が強いんですが、私はだしの味が際立つ薄めのみそ汁を作るようにしています。
うちでは、野菜の消費量がすごく多いですね。料理で使い切れなかった野菜は、どんどんピクルスにしてしまいます。おかずは肉と魚を交互に出すようにしています。小さい子は魚嫌いが多いと聞きますが、娘は私の子ども時代と同じで魚が大好き。納豆、おみそ汁、魚の3点セットをリクエストしてきます。それと、あごだしで作っただし巻き卵。子どもの希望に応えるために作る料理は、楽しいですね。
(聞き手・菊地武顕)