母親は教員をやっていて忙しかったので、料理は祖母がよく作ってくれました。僕も食事の手伝いをしました。祖父の部屋で、祖父が好きなNHKの将棋番組を見ながら、祖母と一緒にいりこの頭とはらわたを取っていた覚えがありますね。
祖父母は戦争を経験した世代なので、麦飯が嫌いでした。母は「健康にいい」と麦飯や五穀米とかを導入したかったんですが、祖母が「なんでそんなもん食わないけんの。見とうもない。せっかく白米が食えるんやから、それ以外食いたくない」と。
でも芋は好きで、よく出していました。それとカボチャの煮付け。甘いカボチャの煮付けが、週4回くらい出ました。単体で食べるのはいいんですが、おかずの顔をして出てこられるのはちょっと。甘いからご飯には合わないと感じてました。
![](https://www.agrinews.co.jp/media/2022/12/03/l/20221203_drjtpdxnutsfabtoiuyx.png)
中学は、呉にある私立に行かせてもらいました。広島市内からも生徒が来るような学校でした。
その頃、呉にはすき家があって、牛丼が人気だったんですね。ところが広島の子たちによると、向こうには松屋という店があって、そこでは卓にたれが置いてある。カルビ味のたれというのがあって、それをかけて食べるとめちゃくちゃうまい……。そんなうわさを聞いたんです。
それで呉の子5人くらいで、松屋に食べに行ったんです。「スタンド・バイ・ミー」ですよ、線路は歩かなかったけど。食べたらうまくて、広島ってすげえなと感動しました。
![](https://www.agrinews.co.jp/media/2024/12/06/l/20241206_sd0yaelf9mqxnij6jpig.jpg)
![](https://www.agrinews.co.jp/media/2022/12/03/l/20221203_drjtpdxnutsfabtoiuyx.png)
もう一つ広島での思い出を挙げるとすれば、旧市民球場で食べたカープうどんですね。
小学校低学年の頃、離れて生活をしていた父親が広島に来て、市民球場に連れて行ってくれたんです。その試合で、ディアスという選手がサヨナラ2ランホームランを打ちました。衝撃的で、僕はそれからカープファンになりました。
父親は静岡の人間なんですけど、広島の大学に通ったので、よく市民球場に見に行っていたんだそうです。僕に「これがうまいんだ」と言って、カープうどんを勧めてくれました。別に特段カープらしい何か、コイとかが入っているわけではないんです。肉うどんとか天ぷらうどんとか、全然普通のうどん。でも球場の名物で、野球観戦とうどんが一つのセットといいますか。父親と市民球場に行ったら、必ず食べました。
![](https://www.agrinews.co.jp/media/2022/12/03/l/20221203_drjtpdxnutsfabtoiuyx.png)
父親は、巨人ファンだったんです。僕は時々会う父親を悲しませたくない気持ちもあって、試合に連れて行ってもらうたびに、自分も巨人ファンだと言ってたんですよ。
でもちょっと大きくなってから、久しぶりに父親と野球を見に行った時に、言ったんです。ちょうど巨人がペタジーニやローズを取って補強をした時期でした。それで「巨人は駄目じゃん。金にものをいわせて」と、周りが言ってるような巨人の批判を、まるで自分の言葉のように父親にぶつけたんですよ。
その時の父親の悲しそうな顔。僕にすれば、自分にも好きなものがあるんだと表現したかったんでしょう。広島で暮らしているアイデンティティーとして広島ファンだと。でも父親の悲しい顔が……。
いまだに、新しくなったマツダスタジアムでカープうどんを食べると、あの時のことを思い出します。
(聞き手・菊地武顕)