夏の間、畑で取ったキュウリを食べて、みずみずしく甘かったのを覚えています。また、庭にはイチジクとザクロ、柿もあり、おやつ代わりに食べていました。野山を走り回った時には、野イチゴを食べたり。そんな子ども時代を過ごしました。
長じて僕は、ソロキャンプなど自由な旅が好きになりました。全国各地でおいしいものを食べてきましたが、充実しているのはやっぱり北海道。特に真冬に食べたゴッコ汁は忘れられません。ゴッコとはホテイウオという深海魚のこと。よくこの魚を食べようと思ったなという見た目ですが、おいしくて。寒い時に飲んだということもあって、染みましたね。東京の市場とかに出しても全然売り物にならないので、地元でだけ消費すると聞きました。本土には出ていかない食材・料理を味わえたのも、旅に出たおかげです。

旅の延長といえるかもしれませんが、新型コロナウイルスでの自粛が一段落してから、四国でお遍路をしました。その土地その土地の文化や歴史と触れ合うのが楽しかったです。車を使って2週間ほどで回ったんですが、山の頂上とかに寺があったりするので、けっこう疲れるんですよ。ですから夜にご当地のご飯を食べるのが、とても楽しみで。お遍路なんですけど、だんだんグルメ旅みたいになってしまいました。

高知県の須崎は、お遍路のコースでいうと山場の手前の町です。ここでスタミナをつけなきゃっていう場所で、ちょうどいいことに名物として鍋焼きラーメンというのがありました。これを食べたら疲れが取れた感じがしましたね。

他にもいろいろおいしい料理があったんですが、一番楽しめたのが香川県です。というのも香川県は、八十八カ所の一番最後のところ。お遍路を始めて最初の頃は「ちゃんと間に合うか」みたいな焦りがあったんですけど、最後だから余裕を持って回ることができたんですね。しかも険しい山もあまりない。平たんで歩きやすい上、もうすぐだという解放感もあって、割とのんびり地元の文化や料理を楽しむことができました。
讃岐うどんは有名ですが、製麺所がやっている店に入ったら、テーブルの上にネギとはさみが置いてあるんです。勝手にその場でネギをチョキチョキ切って入れていく。これがなくなると、常連さんは隣の畑からネギを抜いてきて、土が付いたやつをチョキチョキして入れていくんです。面白かったですね。
骨付き鳥というのも食べてみました。骨付きのモモ肉を焼き上げたもので、親鳥と若鳥という2種類があるのが面白い。親鳥は一筋縄ではいかないぐらい硬く、かめばかむほどジューシーになっていく。若鳥は割と柔らかい。地元の人もどっち派というように分かれたり、気分や体調によって食べ分けたりするそうです。僕は2人で行ったので、両方を頼んで食べ比べをしました。僕は硬い親鳥が好みでしたね。この店にもはさみが置いてあり、それで切って食べていくんです。ニンニクの味が利いててすごくおいしかったです。

僕は主に警察小説を書いていますが、今回、ライターとして全国を回る元警視庁刑事を主人公にした作品を書きました。その中に、お遍路で出合った香川の名物が登場します。普通、警察小説で食べ物といえば、張り込み中のラーメンくらいしか出てきませんが、彼を主人公にした新シリーズでは行く先々での食べ物を出そうかなと思っています。
(聞き手・菊地武顕)