また、脳が「あそこにあんな料理があった」と記憶しているんです。それを思い出して、あそこのあれを食べたいという気持ちが湧いてくる。そのような店と味のストックがたくさん頭の中にあって、その日の気分で、ストックの中から選ぶんです。自分の中できちんとしたイメージを描いて、食べ物を決めます。

子どもの時からいろいろなものを食べさせてもらったからだと思います。両親は、割とよく外食に連れて行ってくれました。おかげで舌の経験がどんどん増えていったことが、大きいのかな。別に豊かな家というわけではなかったんですけど、食に対して好奇心が旺盛な両親だったんですね。「あそこに店ができたから行ってみよう」と。
実家は浜松で田舎の中都市なんですが、割といろんなお店があったんですね。おかげで小学校の中学年の頃には、ピータンを食べたんです。「面白そうな中華の店ができたぞ。台湾系の料理を出すようだ」と父が言ったので、3人で行ったんです。メニューを見て「ピータンって何だろう?」。そこで注文したところ、真っ黒な変な食べ物が出てきて、すごくびっくりしました。
私は友達の間で得意満面でしたね。他の子が食べていないものを食べているんだということで。

母は、店で食べて気にいった料理は、家でまねして作っていました。
その中で一番印象的なのが、グラタンです。高校の頃に、よく作ってもらいました。当時、グラタンの専門店があったんですよ。母はそこのホタテ貝のグラタンが好きで、ずいぶんと食べに行きました。やがて自分で工夫も加えて家でも作りだしたんですけど、工夫のおかげで、母のグラタンの方が店よりおいしく感じました。しょっちゅうグラタンばかり出てきた時期もあります。たくさん作ってストックしておいて、焼きたい時に焼いていました。

いろいろ料理を食べましたが、私が一番おいしいと思っているのは、白いご飯です。ノリのつくだ煮があれば、何杯でも白ご飯を食べることができます。それとお茶漬けが好きで、必ず食事の最後にお茶漬けをするんです。実家の冷蔵庫には塩辛、めんたいこ、塩昆布などをストックしていて、お茶漬けの時にいただきました。茶わんにご飯をちょっと残しちゃうんですよ。1口か2口分ぐらい。それにお茶をかけて食べるんです。焼き肉屋さんでなら、キムチを載せてほうじ茶をかけていただきます。とんかつ屋さんなら、1切れか2切れをご飯に載せ、おしんことお茶をいただいてとんかつ茶漬けにして食べる。
実家ではお茶をよく飲むので、お茶漬け好きはそのためかもしれないですね。浜松では、それぞれの世帯で専属のお茶屋さんがあるといっていいんじゃないですか。うちもずっと取引しているお茶屋さんがあって、私が東京に戻る時には、そこでお茶を買ってお世話になった方のお土産にしています。実家ではテーブルにはいつも急須があって、それにお湯をついで飲みます。実家にいる間はペットボトルのお茶は飲まないんですが、JAとぴあ浜松のファーマーズマーケットで売っている、JAの缶のボトルのお茶はおいしいです。

私はJAのファーマーズマーケットが好きで、浜松に帰ると、よく買い物に行きます。東京に戻る前にはそこで買ったお米を送るんですが、段ボール箱に隙間ができますよね。そこでお茶や日用品も詰め込んで送るんです。母は「東京で買えばいいのに」と言うんですけど、それが習慣になっています。
(聞き手・菊地武顕)