行く先々で、その国の食文化を反映した食事でもてなしていただきます。アラスカに行った時の料理が印象深いです。アザラシのおなかを切り裂いて、その中にツバメのような渡り鳥を詰めて2、3年発酵させるんだそうです。その鳥を取り出して火も通さずにお皿に載せて、そのまま生で食べる。頭から尻尾まで全部食べられると勧められました。
おいしかったもので言うと、オランダで食べたウナギの燻製(くんせい)が一番です。しっかりといぶしたものとかなり生っぽい感じの燻製とがあって、生っぽい方はお刺し身みたいでした。「ウナギは生だと毒性があるので燻製にします」という説明を受けました。これと野菜とドレッシングを合わせたサンドイッチが、オードブルで出てきたんです。

北朝鮮にも行きました。2、3日で帰る予定でしたが、金正日総書記(当時)に引き留められ1カ月ほど滞在し、もてなしを受けました。欧米での夕食会とほぼ同じ。オードブルから始まって最後はケーキをいただくディナーコースです。
総書記のご自宅にも招かれ、奥さまが作られた蜂蜜ご飯をいただきました。蜂蜜で炊いたご飯で、五穀米みたいな色でちょっと甘くてつややか。中に松の実とクコの実が入っていました。体にとてもいいんじゃないかと感じました。あとはコイ。「これを釣ってきました」と、池のコイを釣ってきて見せられた上、刺し身と煮魚で出されました。

先ほどお話ししたように、地球儀の陸地のほとんどに針が刺さってしまっています。ですから次は宇宙に行ってみようと思ったんですね。

ロシアに招かれて、スターシティという宇宙に行く人材を集めた街に行きました。最近はスターシティの情報もある程度解禁されているようですが、初めて行った20年前は本当に機密性が高かったです。宇宙飛行士の訓練や、国中から選び抜かれた優秀な子供たちのエリート教育が行われている場所です。
トップガン(選ばれた操縦士)と一緒に戦闘機に乗って、成層圏まで行くんです。9分ほどで成層圏に到達。トップガンと話し合ってその時々で成層圏での滞在時間は変わりますが、その後10分くらいかけて旋回しながら地球に戻ります。
出発の前と後に、特別に開発された宇宙食をいただきます。クッキーのような形状でとても軽いんですが、ちょっと食べただけでおなかがいっぱいになるんです。味は何種類もあって、たくさん並べられている中から好きな種類を取って食べて、ミグに乗り込みます。
1回成層圏に行って戻ると、それだけで体重が3キロも減るんです。帰ってきて宇宙食を食べることで、また体が元に戻る感じがします。
私は毎年のようにスターシティに行っています。宇宙食もいろいろ新しいものが出ているようですが、ベーシックなクッキー状のものは変わりません。改良する必要がない、究極の食事なのかもしれません。

私は各地でいろいろなものを食べてきましたが、生産地も訪れるようにしています。生産者さんとお話しすると、どの国の人も同じ人間だなあと感じることができますね。
日本にいる時は山梨県を拠点としています。おいしいフルーツを楽しんだり、肥料や飼料を変えて生産した野菜や肉の試食を頼まれたりします。生産のためのご苦労には頭が下がり、地方都市で公演をする時には農繁期を避けるようにします。生産者の皆さんに、公演を楽しんでいただきたいですから。
(聞き手・菊地武顕)