高校3年間の弁当は、ご飯がぎゅっと詰められて、その上にのりがのる。あとはもうウインナーと卵焼き。毎日それでしたね。
大きくなってから分かったんですが、おやじは少し軟らかめのご飯が好きだったんですね。おふくろがおやじに合わせて、ちょっと軟らかめに炊いていたらしいんですけど、僕はそれが普通だと思っていたんですよ。当時、炊飯器は出てきたけど、保温機能はまだないし、電子レンジもない。おひつに入れていました。冬なら食べる前にこたつの中であっためておいたり。ひょっとするとおふくろが、軟らかめに炊いた方が冷えてもおいしいんじゃないかしらと思っていたのかもしれません。

大人になって定食屋さんとかでご飯を食べた時、少しかたいなと思った記憶があります。友達の家に行った時も、彼が炊いたご飯がかたくて。「これかたくない?」と言ったら、みんなが「いや、これ普通だよ」と。本当にびっくりして。うちのご飯が基本だと思ってましたからね。自分が食べてきたご飯は軟らかいんだということをそこで知りました。
でも僕は軟らかいのが好きでしたし、炊き方でいろいろと変わってくるということ、ご飯のかたさというのは大事なんだということに気が付いたんです。
ですから今でも、ご飯はやっぱりちょっと軟らかめが好きなんです。小さい頃に食べた食感が、僕の中に根強く残ってるんですね。

おやじとご飯の思い出は、もう一つあります。おやじはご飯を3分の1くらい残して、最後は必ず温かいお茶をかけてお茶漬けにして食べたんです。それで、茶わんに付いたご飯粒をお茶の中に落として、一粒も残さずきれいに食べていました。
おやじを見て、僕も最後はお茶をかけてご飯粒を落として食べるようにしました。きれいに食べて「ごちそうさまでした」と言うんです。
大人になって困ったのは、よそさまの家に招かれてご飯をいただいた時。最後にお茶をかけたなら、周りの目が……。下品なのかな、申し訳なかったのかなと感じました。
でも他の人の家に招かれた時以外は、今でも最後はお茶漬けにします。定食屋に行ったら、メインのおかずと漬物をどのくらい残せばいいか計算して、ご飯が残り2口ぐらいになったところで、お茶をかけて食べます。家でもそのようにして食べています。こればかりは子どもの頃からの習慣ですからね。

僕はラーメン屋さんやうどん屋さんに行っても、必ずライスを頼むんですよ。ラーメンとライス、うどんとライス。麺類だけでもおなかはいっぱいなんですけど、なんか気持ちがご飯を求める。居酒屋に飲みに行ったら、最後はお茶漬けかおにぎり。たまに友達何人かとピザを食べても、帰りにコンビニに寄っておにぎりを買います。
それくらいご飯が好きだから、困るのは海外での仕事。夜はスタッフの方々と食事をするので、肉とパンなんですよね、どうしても。でも大体、昼食は自由なんです。僕はニューヨークに行くことが多かったんですが、日本食のお店が多いので助かりました。街を回ってラーメン屋さんを見つけて、ラーメンとギョーザとライスを食べる。1日1回はお米を食べたいという気持ちが満たされ、「よし、お米を食べた」と自分に言い聞かせて仕事をしましたね。
成田空港に到着したら、すぐに定食屋さんに入りました。到着時間の関係でレストランがやっていない時は、コンビニに入っておにぎりを買って食べましたね。
大好きなお米を作っている農家さんには本当に感謝しています。(聞き手・菊地武顕)