インバウンド(訪日外国人)需要の回復に伴い、2024年は農村に向かう外国人も増えそうだ。本紙「農家の特報班」は、外国人が農村を訪れる理由をさらに探った。
専門家 欧米は体験 アジアは食重視
「訪れる目的は、出身国によって違う」
インバウンドを受け入れる自治体などを支援する日本インバウンド連合会の中村好明理事長はこう指摘する。
中村氏によると、欧米からの旅行客は、旅行で知的好奇心を満たしたい傾向がある。長期滞在の場合が多く、観光地から足を伸ばしてその国の暮らしや文化を学ぶ。農村で農業体験や農泊をするのもそのためだとみる。
一方、アジアからの旅行客は、果物狩りも含め、「日本で食や買い物を楽しみたい傾向がある」。日本産の農産物や商品が自国では割高だったり、入手しにくかったりする場合があるためだという。
旅行会社 リピーター 個人旅行追い風
海外の旅行会社向けに農業体験や農泊などを提案する、農協観光・国際交流事業課の寺田順一課長は「訪日回数が多い人ほど、行ったことのない場所や穴場スポットを求める」とみる。東京や京都などを巡る「ゴールデンルート」を訪れた人が、次に選ぶのが地方都市や農村だという。
寺田課長によると、団体旅行より、自分の興味で行き先を決める個人旅行の外国人が増えていることも農村には追い風だ。
農村の食・風景などの情報が交流サイト(SNS)やインフルエンサーの発信、自治体のウェブサイトで手軽に得られ、旅程に組み込みやすくなっているという。
外国人の視点も聞いた。タイ人向けの訪日旅行情報サイトを運営する同国出身のバードさん(38)によると、タイ人が地方を訪れる最大の目的は「日本ならではの景観」。「タイは常夏。日本の四季は新鮮だ」と話す。
一方で「日本の果物のおいしさはタイでよく知られている」。景勝地を訪れた後に果物狩りをする人が多いという。
バードさんによると、タイの首都バンコクの百貨店では、日本産のブドウ「シャインマスカット」が1房2万円程度。日本での果物狩りなら数分の1の金額で味わえる。柿やイチゴ、桃、メロンも人気だという。
農村でインバウンドを受け入れるには、どんなことがポイントになるのか。取材で訪れた地域と農園に聞いた。
絵文字で通じ合う
■秋田・大館市推進協 米国人のバンさんが訪れた秋田県大館市。同市まるごと体験推進協議会に登録する農家民宿3軒は全て、英語をほとんど話せない70代の農家が経営する。
宿泊ルールを伝えるため、同協議会が作ったのが約20個のピクトグラム(絵文字)だ。入ってほしくない部屋、飲んでもよい水道などに貼り、言葉が通じなくても分かるよう工夫している。
会話にはスマートフォンの翻訳アプリを使うが、同協議会長で自身も農家民宿を営む石垣一子さん(70)は「秋田弁のなまりが強いと翻訳されない」という。きりたんぽ鍋のレシピ、近くの温泉に案内する際の説明文などは英訳して見せる。 多言語HPが決め手
■山梨・中込農園 タイ人のカンジャナさん一行が柿狩りをした山梨県南アルプス市の中込農園には、年間数千人の外国人旅行客が訪れる。園主の中込一正さん(66)によると、ホームページ(HP)がきっかけで訪れる人が大多数だ。
同農園のHPは日本語の他、英語、中国語の簡体字・繁体字に対応する。前職が英語教師の中込さんと香港出身の妻・黎桂簪さん(38)の2人で自作。正確な英語表記は、カンジャナさんが同農園を選ぶ決め手となった。
多言語対応のHPを持つ農園は増えているが、翻訳アプリを使う場合が多い。最近は精度が上がっているものの、母国語とする人(ネーティブ)には違和感のある記述が少なくないという。
中込農園の場合、メールや電話の問い合わせも英語や中国語で対応するが、中込さんは「HPだけでも一定の効果が見込める」と指摘する。
訪日客数は急回復 水際緩和、円安で
新型コロナウイルスの影響で激減していた訪日客数は、政府が水際措置を緩和した2022年10月以降、円安も背景に急回復している。日本政府観光局によると、23年10月の訪日客数は19年同月を0・8%上回る251万6500人。単月で初めてコロナ前の水準を超えた。
農泊の宿泊者数も回復している。農水省によると22年度は610万8000人で、19年度の589万2000人を上回った。このうち22年度の訪日客の宿泊者数は15万4000人。19年度の37万6000人は下回るが、21年度の9000人から急増し、回復基調にある。農村を訪れた訪日客も23年度はさらに増えているとみられる。
訪日客を受け入れる農村には、観光収入や雇用の創出に加え、住民同士の交流、古民家や棚田、郷土食など地域資源の価値の再発見、文化の継承といった効果も期待できる。こうしたことから、同省は23年6月に「農泊推進実行計画」をまとめ、25年度までに農泊の宿泊者数を年間700万人、うち1割の70万人を訪日客とする目標を掲げている。
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