[論説]23年産米価格 「多面的機能」判断材料に
低迷していた米価は22年産で小幅に戻し、主産地のJA概算金は前年比で60キロ当たり500~1500円中心の上げ幅となった。産地と卸の相対取引平均価格も3年ぶりに上向いた。それでも大幅下落前の19年産と比べると下回っており、回復は道半ばだ。
23年産米価格に影響する“材料”に関心は集まる。農水省がまとめた作付け意向調査結果(4月末時点)では、主食用米は22年産実績比で17県が減少傾向。前年並みは30県で、増加傾向の県はなかった。作柄などは不確定だが、供給は抑制される方向だ。
新型コロナウイルス禍で低迷した業務需要も、人流の活発化で復調傾向にある。同省によると、米穀販売事業者の中・外食向け販売量は前年を超える月が続く。需給や販売環境は好転するとして、米穀機構がまとめる6月景況調査(DI)の向こう3カ月の米価見通し指数も前月比7ポイント増の60と急伸した。産地や流通業者の間で「価格は上がる」との見方が強まっている。
実際、生産現場では資材コストが高止まりし、農家経営を圧迫する。直近5月の農業物価指数(20年=100)は肥料が155・2で前年比37・8%上昇し、農薬も高水準にある。それでも農産物の価格に転嫁する動きは鈍く、米の価格指数は低水準だった前年と比べて8・6%上昇するも、84・3と基準の100を割ったままだ。
米は需給で価格が決まるため、変動するコストを反映しにくい。生産から流通まで「薄利」が当たり前とされた慣習から、抜け出す時だ。米を作る基幹的農業従事者のうち、49歳以下の割合はわずか5・5%(20年)。このままでは将来、米の供給力が弱まるのは必至だ。米は「もうからない品目」として、後継者に敬遠させてはならない。
米の適正な価格形成に当たり、物価高による消費者の節約志向や米離れといったハードルは依然として立ちはだかる。乗り越えるには、消費者への丁寧な情報発信が欠かせない。米は国内でほぼ自給できる数少ない品目だ。農薬や化学肥料の使用を抑えた栽培も進む。水田は洪水や土砂崩れを防ぎ、多様な生き物を育む。連作障害もない。多面的な機能を再評価し、価格の判断材料に加えるべきだ。
稲作の持続性を高めるために、米業界は知恵を絞り、理解ある消費者を増やしたい。