[論説]農業経営の景況感調査 価格転嫁と人材確保を
景況感調査は本紙が継続的に実施しており、今回は9月に計47の経営体から回答を得た。回答した経営体の経営面積は40ヘクタール以上が全体の66%を占め、100ヘクタール以上も同23%に上るなど規模は大きい。経営の先行き次第で、地域農業に大きな影響が及ぶ。
経営環境が5年前と比べて「良くなった」と答えたのは21%、「変わらない」は30%の一方、「悪くなった」は最多の49%に上った。経営悪化を招いている要因に、生産コストの増加がある。資材の価格や人件費の上昇が、経営に「大きな影響がある」と答えた割合は85%、「やや影響がある」は15%で、「影響はない」はゼロだった。加えて、消費税のインボイス(適格請求書)制度の影響があるとの回答も45%に上った。
大きな問題は、コスト上昇分を農畜産物価格に転嫁することが「全くできていない」との回答が70%に上ったことだ。適正な価格転嫁は待ったなしだが、政府の動きは鈍い。農水省が制定を目指す法案は、関係業界の利害調整が難航し、来年の通常国会への提出は困難な情勢だ。今回の調査結果からも、安定経営に向けた価格転嫁の推進は、極めて大きな課題となる。国民の理解を得ながら着実に進めなければ、生産基盤の弱体化は進む一方だ。
人材確保も重要だ。組織運営の課題を尋ねたところ「生産コストの高騰」(75%)に続いて、60%が「労働力不足」、45%が「メンバーの高齢化」を挙げた。集落営農の組織数は2023年は全国で1万4227とピーク時(17年)と比べ6%減。高齢化で世代交代できず、解散に追い込まれたとの指摘や、企業の雇用延長で「人材が帰ってこない」といった声も上がる。行政やJA、関係者が一体となって副業化を進めるなど、解決策を探る必要がある。
水田転作の先行きも注視したい。転作で増やす余地のある作物について三つ聞いたところ、最多は飼料用米の49%、大豆34%、麦26%と続いた。同省は飼料用米への転作助成で、多収の専用品種ではない一般品種で取り組む場合は、24年産から交付単価を減らす。専用品種への移行を促す狙いだが、団地化を進めるなど一般品種との混入防止に取り組む必要がある。政府は助成見直し一辺倒ではなく、こうした現場の体制整備への支援も重視すべきだ。